デート......じゃねえよ!
岸に上がり、息を切らしながらも志波は口を開けた。
「轟……さんは、俺のこと嫌いなんじゃないの? 2人から聞いたんだ」
前髪をかき分け、こちらを見つめる彼へ私は後ろめたさを感じた。
嫌い......そういう感情は持っているのか自分ではよくわからない。
蟻を切ったりする様や、少し常人とはかけ離れた行動が節々にあることは怖いけど。
でも、傘の一件やこの1年見て来た感想としては別に悪い奴ではないといった感想が第一にある。
しかし、好きかと言われればうーんといったところだ。
単純にもう、金ずるにしたりする行為に躊躇いを感じた。
それを直接いったら、またこいつ何するかわからないし無難に答えるしかないか。
「まぁその、猫は助ける奴だということは確信を持っていたって感じかな」
無難というか、微妙な返答をしてしまった。
彼は少し黙り込んだ後、猫を離す。
「よくわからないけど、プレゼントずっと持っててくれたんだ」
ニカっと笑いながらいう彼の言葉に、私は意味を読みとるのに時間がかかった。
無意識に近い間、ずっと左手に握り締めていた小包。
それを3秒ほど見つめた後、再度彼の方を向いた。
恥ずかしさのあまり、首から上がとてつもなく熱い。
恐らく赤面している。
私は誤魔化すように語気を強めて話題を切り替えた。
「それより志波、なんで橋にいたんだよ!」
「え? あーそれは」
それから彼の経緯を聞き込んだ。
なんでも蟻の巣を発見した後は、ストレスを発散するためにまたしてもザクザクやっていたらしい。
今回ばかりは怒髪天にきたらしく、数千匹いた穴を空っぽにしてしまうぐらいだ。
巣穴を壊滅させた後、手を洗おうと水辺を探してぼーっと歩いていたら橋に辿り着いた。
夕焼けに染まる川が心を浄化してくれているみたいで、しばらく眺めていたという。
なんか後半良い話風にはなっているけど、前半怖すぎだろ!
なんだよ、巣穴壊滅させるって最初のころより悪化してるじゃん。
そろそろ蟻以上の何かに手を出すんじゃないだろうな。
一年ぶりに志波の怖さを再確認した私は、先ほど口走ったあることについて後悔するのであった。
「じゃあデート......ちゃんと計画していきますんでお願いします!」
上の空で震えていると、彼はルンルンステップでこの場から遠ざかっていった。
「え......あっおい!」
声をかけるも聞こえていないのか、そのまま姿が見えなくなる。
ひゃあああ!
やっちまっ......たぁぁぁ!
いくらプレゼント貰ったからとか、悪口いって傷つけたからって口走っていいものと悪いものがあるだろ私!
クソォ、こんなラッピングぐちゃぐちゃにして破いてやる。
何入ってるんだよ誕生日プレゼント!
包みを開けると、某有名な朝にやっている魔法使いもののアニメのフィギアがあった。
何だこの、私が一ミリも欲しくないプレゼントは!
はぁ......もう何なんだよ。
それからデート当日。
私はあいつが指定した待ち合い場所である秋葉原の駅前にて、待機していた。
そう......待機しているんだ!
おいおいおい、デートに遅れてくるとはどういう了見なんだよ志波の野郎!
私は胸元とへそが少し空いた黒のカシュクールニットと、膝上のダメージジーンズで決めて来たのに!
せめて秋葉原を満喫しようという気分だったのに、初っ端からイライラさせやがって。
このフィギア握りつぶしてやろうか?
私はこめかみをピキピキさせ、バッグから取り出したあのフィギアを睨みつけた。
「すいませーーーん!!!」
次の瞬間、突如として駅構内に聞き覚えのある男の声が響き渡った。
声の主の方を向くと、私の前でスライディング土下座をして何度も手と顔を床につける志波の姿が。
「ちょっ、おま......やめんか!」
私は周囲の目が一点に集まったため、彼を無理やり引っ張って人が少ない通りへ向かった。
ったく、デートなのに1つも楽しくない!
振り返り、彼を睨みつけるように見つめた。
すると、涙目で再び膝を落とそうとした。
「すいません、遅延に遅延が重なってしまったんです! もう遅れは避けられないと、お詫びの品を隣の駅で買っていたらまた遅延が発生して......それで」
はぁ、まぁ本人に悪気があった訳ではないようだ。
これ以上咎めるのも、怖いからやめとくしかない。
「わかったわよ。で、お詫びって何?」
彼は涙を拭きとり、おもむろにポケットから何かを取り出した。
手のひらを差し出す私へ、ポトンとそれを落とした。
彼の手の甲が引いていき、その姿が映る。
「魔法少女プディキュアのキーホルダーです!」
......だから興味ないって、いってんだよ!
私は心の中でそう突っ込み、つい勢いよくそれを地面に叩きつけた。
「え......たしかに遅れたのは悪いと反省しています。だけど、ミミちゃん(プディキュアのキャラ)を投げ捨てるなんて」
カチカチカチと彼はいつもの奴をポケットに忍ばせていた。
や、やばい!
ついムカついて地雷踏んでしまった。
あーもうこっちもムカついてるのに!
「あ、つい間違えて落としちゃった。えー、かわいい!」
私はキーホルダーから砂を叩き落とし、冷や汗をかきながらそれに頬を擦った。
その姿に機嫌を直したのか、彼は曇った顔が一瞬にして笑顔に切り替わる。
ほんとこいつはチョロイけど危ない奴だ。
はぁ、これからこいつとデートしなきゃいけないとまじでめんどくさい。
「轟さん」
ため息を吐いた私に、彼はただ名前を発した。
「......なんだよ」
意表を突かれた私はただ、目を点にして彼を見つめた。
「ミミちゃんもかわいいけど、その......今日の轟さんも滅茶苦茶素敵だと......思います」
ポリポリと頬をかき、彼は照れ臭そうにそう発した。
「......えっ」
予想外の言葉に、私はやはり目を点にして彼をしばらく見つめるしかなかった。
彼が頬を紅く染めていくたび、後を追うように顔が熱く感じたのは言うまでもない。
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