臭い女?......じゃねーよ!
あぁ、校内を走り回ったせいか化粧も髪も乱れまくっている。
しまいにゃ、おどおどした女の先生にお化けと間違われてしまった。
学校にはいないと見切りを付け、街中を歩きとおしている。
いつしか着崩れさせたブレザーの制服は、汗が乾いて濡れも少なくなった。
しかし同時に冷え込んできて、風が吹くたびにブルブルと震えてしまう。
志波の野郎、午後の授業すっぽかせてどこ行きやがった。
「ねー、君高校生でしょ? なんでこんなところいるの」
公園のベンチで休憩していると、鼻ピアスの男が声かけてきた。
だるいから無視を決め込むが、えらくしつこいナンパだ。
恐らくベテランのナンパ師で、自分に自信があるのだろう。
仕方ない、ここは1つこいつのプライドをへし折ってから捜索再開するか。
「ねぇねぇ俺チクらないであげるからさ、一緒に遊ぼうぜ。お、乗り気じゃーん」
まずは思わせぶりに立ち上がり、上目遣いしてやる。
そして、開口一番に言ってやるんだ。
「お前は鼻にピアスしてるけど牛か? モーモー言いながらママの乳でも吸ってろ」
ってな。
コホンと咳込み、口を開いたその瞬間だった。
男は自身の鼻を塞ぎ、私から距離をとる。
「汗くっさ! ドブみてぇな臭いしてやがる!」
え?
あ、そういえば汗かいて臭いから香水付けたんだっけ。
安物だからなぁ、汗と混じってえぐいのか?
自分じゃわからない。
ていうか、言い放つ前に男が退散したんだが!?
なんか、私の方が傷ついてるんですけど!
はぁ、今日は付いてないなぁ。
ていうか、本当にどこ行ったんだよあいつ!
いつの間にか、街から外れた河川敷の上を歩いていた。
もう引き返そうかと、綺麗な夕焼けを眺めて思った。
ん?
目の前の橋に人影が映る。
ここは河川敷に野球やサッカーのグラウンドがあるだけで、民家はない。
サイクリングやスポーツ以外でここを通る者はいないはずだけど、あいつはあそこで何をしているんだ?
もしかして、自殺でもする気なのか!?
あーもう、これ以上臭くなっても知らねーや!
私は髪を後ろで結び、橋の方へ走った。
すると、人影からだんだんと人物の姿がくっきりと浮き彫りになる。
「て、お前志波じゃねーか!」
手すりでうな垂れてため息を吐いているのを見るに、やはり思い詰めている。
私が大声でそう突っ込んだものの、反応がない。
あいつは耽ると周りが見えなくなる節があるからな。
しかしそれでも、自殺し兼ねない状況なこともあって手の届かない距離まではひたすら話しかけた。
「お前、死ぬのはちげーだろうが!」
ついに手が触れる距離まで接近。
私はスピードを落とすことなく、勢いよく彼の背中にタッチした。
「え? うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
あれ?
たしかに触れたと思ったが、目の前から突如志波の姿は消える。
手すりを掴み、下を見ると絶賛落下中の志波と目が合った。
「酷いよぉ! 轟さぁぁん!」
そう叫び、彼は水面にバシャーンと沈んでいった。
あれー、これ私が落としちゃった感じですか?
数秒ほど水面を眺めるが、彼は浮き上がってこない。
だんだんと私は、ヤバい事態であることを理解しはじめ、フガフガと普段しないような荒い呼吸を繰り返した。
自殺止められないどころか、人殺しちゃったんですけど!
ヤバい、このまま逮捕されたら私有名人だよ。
「ドブの臭いを放つ女が、同級生の男を川に突き落としたんだってよ」
なんて街中で噂になって、実際手錠を掛けられるとき警察官に「くっさ!」って言われるんだろうな。
「そんなの嫌だ! 志波、生き返れ!」
叫んでみたものの、川からポチャンと魚が飛び跳ねたぐらいの変化しかなかった。
クソッ!
本当に殺しちまったのかよ!
まだプレゼントのお礼、言ってないのに。
だんだんと自分のことより、志波への罪悪感が気持ちを埋めていった。
私はただ、その場に腰を落としてプレゼントを見つめるしかなかった。
「と、轟さん助けて!」
ん?
これは幻聴かと思いつつ、再び立ち上がる。
しかし目に映ったのは飛び跳ねる魚ではなく、志波の姿だった。
川から少し浮き出る岩にしがみつき、何度も私の名前を呼んでいる。
「待ってろ! 今そっちに向かう!]
私はまたしても全速力で走り込んだ。
橋を渡り、彼の近くの岸まで辿り着いた。
しかし、ここで私はあることに気づく。
「悪い志波、私泳げない」
「えー!?」
志波は案の定、絶望の表情で言葉も出ないといった感じだ。
あぁ、一体どうすれば。
近くになんかないかと捜索し始めたその時、向こうの川からダンボールの箱がこちらに流れてくる。
ニャーニャーとへんな音がするダンボールに、志波のことがありながら目がつい奪われた。
って、猫!?
猫が川に流されている!?
「志波! 猫ちゃん助けてよ!」
「え? 僕は!?」
「志波も猫もどっちも心配だ!」
「そんな、今見たばかりの猫と同列だなんて。やっぱり轟さんも、僕のこと」
しまった、猫の危機に思わず考え無しの言葉が出てしまった。
志波は明らかに落ち込んだ様子を見せる。
「もういいや、本当にこのまま死んじゃおっかな。死ぬ気じゃなかったけど」
うげぇ、志波の野郎ならやりかねない。
どうしよう、何かないのか?
あそこから志波を救いだし尚且つ、猫ちゃんも助けるいい方法。
あいつは何か発破かければ、力を発揮するんだがなぁ。
脳をフル回転させ、過去の記憶を遡った。
そして、私は一年前のことを思い出す。
そうあれは、5分休みに毎回来る志波のうざい行動に愚痴を吐いた舞の言葉。
てか思い返せばこいつ、舞や香菜の誕生日は覚えてないくせに私のだけ。
......やるか、このセリフを言えば取返しがつかなくなるが。
私は生唾を飲み込み、覚悟を決めた。
よし、いうぞ。
「志波! その猫助けて岸までこーい! で、出来たら付きあ......いや。デートしてやってもいいぞ!」
やべぇ、流石に何か危機感を感じてデートに変更してしまった。
付き合うならまだしも、デート如きじゃ流石に喰いつか......。
「うぉぉぉ!」
突如、志波は2メートルほどの水しぶきと共に豪快なクロールをし始める。
猫の入ったダンボールを掴んでからは、それをビートバンに見立ててさらにこちらに向かってバタバタと泳いだ。
迫りくる彼の姿は、前髪で顔が見てないため川から現れた化け物のように見えた。
きめぇと言いそうになり、ドン引きしながら口を塞いだ。
ま、まぁ何はともあれ結果オーライ?
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