友達か金ずるか……じゃねーよ!
それから変人こと志波と出会って半年が過ぎた。
最初に見せた衝撃的な行動も、対処法が分かれば発動することも少なくなっていった。
海や水族館などの金のかかる場所へ赴き、楽しむ私たち3人。
志波は金を出させるだけじゃなく、荷物持ちなどいろいろ雑用をしてもらった。
最初こそやること全部苦に感じてないような表情をしていたが、次第に彼の顔がやつれていったのがわかった。
それもそうだ私たちは金づるとして関係を持っているが、志波は違う。
志波は友達を失いたくない純粋な気持ちで多分、金のことも雑用のことも我慢しているのだろう。
本当の友達関係を知らない彼は、金を出すことを躊躇わないのだ。
それから更に半年、つまり1年が過ぎた。
ある日3人で祭りに出かけた時、彼は夜中だというのにコンビニで働いていた。
学生はもう働いてはいけない時間のはずなのにだ。
2人はその姿に気づかず、祭りの会場へ向かう。
志波も私たちのことを見つけておらず、私が見つめてもわかっていなかった。
その時私は初めて、金をむしりとることに躊躇いを持った。
翌日の昼休みが始まった時、私は屋上へ向かった。
今日は少し、いややんわりと2人に志波との関係について変えていかないか話してみるか。
そう思いながら階段を登り、ドアノブに触れた直後のことだった。
「はぁ? もう金出せないって?」
2人の大声が重厚なドアを越えてはっきりと、こちら側に聞こえた。
咄嗟に耳を扉にピタリとくっつけ、何を話ししているのか盗み聞く。
「はい……えと、親に深夜バイトがバレちゃって……だからその」
どうやら志波がジリ貧になっていることを打ち明けたらしい。
「はーあっそ。ならもういいよ」
「え? お金を出さなくても、いいってこと?」
暗い志波の声色は一転し、期待感を帯びる。
「は? 金ない陰キャ君と私たちが絡むメリットって何?」
2人は冷淡に突き放した。
しかし、私は2人を非難できる心は持たない。
以前なら私も同じことをした。
というか、なんで自分は金づる相手にこんな同情してるんだ?
「メリットって、僕の何がダメなんですか?」
「言わなきゃわからないの? 前髪長くてキモい、動きキモい、喋り方キモい。金で欠点を許容できただけだようちら?」
「そんな、じゃあ轟さんも」
その瞬間、私は扉を開けようと思ったが出来なかった。
「響子? あいつが一番お前のこと馬鹿にしてたよ。何かあればすぐに志波のあれがキモい、これがキモいっていちいち報告してきたし」
そう、私が一番志波のことを悪くいっていたからだ。
だからこの扉を開けて、彼へ弁解するなんてことはできない。
その場から少し離れ、縮こまっているとこちら側へドタドタと足音が大きくなっていった。
「あぁぁぁ!!!」
突如、叫び声の後にバゴンと衝突音が響いた。
あまりの衝撃に思わず目を閉じ、数秒「ぴゃー」と意味わからん奇声を発する。
パチクリと瞬きすると、ドアノブが壁にめり込んでいた。
もしかしてこれ、志波がやったのか?
うぅ、やはりあいつはおっかない奴だ。
って、そうじゃないどうする私!
志波が怒り狂って襲いかかってくるんじゃなかろうか?
でもそもそもここに来たのは舞と香菜に金づるにするのをやめないかって、提案するためだし。
ならあいつより先にまずは、2人に話しかけるべきなんじゃ。
ない頭をブンブン振り回し、血を送ってみるがなーんも決断できん。
こうなりゃスマホでストップウォッチ使おう。
止めた秒数が奇数ならば志波のところ、偶数ならば2人にガツンという。
......あれ、奇数ってどっちだっけ?
ってか、あれなんだ?
イラついているとふと、目の前に四角い箱があった。
ただの箱ではなく、綺麗なラッピングがされており、赤いリボンがついている。
そしてリボンの隙間に小さな紙のカードがあった。
そこには私の名前と共に、誕生を祝うメッセージが記されていた。
そうか、今日は私の誕生日。
もー!
金ないとか言ってるくせにプレゼントだけ用意すんなよ志波の野郎!
私は迷いの糸が切れたかのように、階段を下っていった。
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