第9話

彩子の声が聞こえてきた。


「ええ?」


 振り向くと、花を持った彩子がいる。


「彩ちゃん」


「どうしたの?たけ。お義母さんに報告?」


「彩ちゃんこそ、どうしたの?」


「わたしも、お義母さんに、報告しにきたの。たけ、お義母さんに、ずいぶん迷惑かけてたって、言ってたもんね」


「うん」


「それより、どうしたの?そんなに、泣いちゃって。哀しいことでも、思い出したの?」


「あ、いやこれは」


 彩子は、そっと武の方に近寄り、墓に花をそえ、


「大丈夫よ、たけ。きっと、お義母さんも、わたしたちのこと、祝福してくれてる!さ、顔、拭いて!」


 彩子は、持っていたハンカチを取り出し、武に手渡した。


 二人は、母親に手を合わせた。


「お義母さん。武さんのことは、任せてください。武さんは、わたしが、ちゃんと面倒みます」


 彩子は、小声で言った。


 武は、一瞬、彩子の声がうまく聞き取れなく、


「え、彩ちゃん、なんて言ったの?」


「ううん。ちゃんと、お義母さんに、届いてる!」


 そう、やさしくこたえた。


「さ、帰りましょ!」


「うん」


 武は、まだ、鼻をすすっている。


「さ!泣かない、泣かない」


「うん」




 そうして、彩子と、武は、墓から一緒に寄り添うように帰っていった。

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承諾(後編) 林風(@hayashifu) @laughingseijidaze4649

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