第8話

あくる日、武は、母親の墓参りに来た。しきびを二本。桶に水を入れて、しゃくを一本。


 武は、墓にしきびを用意し、手を合わせた。


「母さん。こんにちは。彩ちゃんと結婚、決まったよ。今日はその報告に来たんだ。そっちはどう?穏やかに暮らしてる?


母さんには、迷惑かけっぱなしだったね。結局、何の親孝行もしてあげられなかったね。


彩ちゃんの両親とも、なんとかうまくやってる。母さんは、もう、僕のことで心配する必要ないよ。


実は、昨日、実樹ちゃんって子に会ってさ。その子も自分の母親を亡くしたみたい。


でも、彼女は僕と違うんだ。ちゃんと、母親と向き合い、看病もして、ぼくとは正反対だったんだ」


 と、告げると、武は、急に泣きだした。


「思わず、実樹ちゃんを抱きしめてしまったんだよ。彩ちゃんがいるのにもかかわらずにさあ。もう、母親にちゃんと、親孝行をしてた実樹ちゃんがうらやましくて、かわいくて、愛しくなって、もう、どうしょうもなかったんだよ。ぼくは、母さんに迷惑ばっかりかけてて、母さんのことなんて何も考えてなかったのに、実樹ちゃんは、ちゃんと、母親と向き合ってさあ」


 武は、もう、鼻水がたれ、おうえつして、顔がぐしゃぐしゃになっている。


「もう、母さんに、ぼくは、何もしてあげることができないんだね。あんなにやさしかった母さんに、あんなに、迷惑かけてたっていうのに、ぼくは、もう、もう、何も返すことができないんだねえ。どうしよう。ねえ、母さん。ぼくは、どうしたらいいの?」


 武は、号泣して、声さえ上げようとしていたが、さすがにそれはできないと思い、うっっうっっという、うなりごえをあげていた。


「……たけ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る