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前回の探索の経験から、デビルバットは動きが素速いということが分かっている。飛行能力が高くて、攻撃も意外に激しい。そうなると僕の走力では逃げ切るのは難しいだろうし、剣を振り回して戦うにしてもヒットする可能性は低そうだ。
また、忘れてはならないのが、彼らは毒を持っているということ。ミューリエの話だと、その毒を受けても即死はしないけど、激痛によってショック死することはあるという。
一応、走り込みの時に森で毒消し草の群生を見つけたから、洞窟へ入る前にいくつか摘んで持ってきている。だからもし毒に冒されても落ち着いて対処すれば大丈夫だと思う。
そしてそれらの状況と情報を考慮すれば、僕が取るべき行動はただひとつ。意思疎通の力を使って戦闘を回避するしかない。
「ミューリエ、僕は戦うよ。だから僕から遠く離れてて」
「……承知した」
ミューリエはその場から何歩か後ろに下がった。逆に僕は一歩だけ前へ。こうして通路の真ん中に僕だけがポツンと取り残される形となり、暗闇の中で浮かび上がって見えるようになる。
当然、そんな目立つ状況になれば、標的になるのは自明の理。デビルバットたちは僕に向かってまっしぐらに飛んできた。もっとも、前回の探索でのことを考えると、そもそも積極的にミューリエを襲おうとはしないかもだけど。彼らは弱い者を集中して狙うみたいな感じだから。
「よしっ、やるぞっ!」
ついに僕の力を試す時が来た。意思疎通の力を使ってデビルバットたちを説得して、戦いをやめてもらおう。もちろん、彼らのスピードを考えれば、力の発動までに何度か攻撃を受けちゃうだろうけど。
ただ、それくらいのダメージには耐えてみせる。無傷で済むとは最初から思ってないし、だからこそ回復アイテムもいくつか持ってきたんだから。それでももしやられちゃったら、その時は仕方がない。覚悟は出来てる。
――不安はあるけどきっと大丈夫。巨大な岩のモンスターに襲われるというピンチだって、僕は乗り越えられた。今回も絶対にうまくいく。自分を信じる!
「…………」
僕は深呼吸をして心を研ぎ澄ませると、デビルバットたちの方へ意識を集中して念じ始めた。
『戦うのはやめよう。僕は敵じゃない。だから襲わないで』
清らかで偽りのない気持ち――。
親しみと慈しみと無垢な想いを彼らに伝え続ける。
すると温かさと穏やかさが胸の中に満ちていって、まるで柔らかな雲のベッドの上でお日様の匂いに包まれているかのような感じがしてくる。僕自身もすごく心地良さい。
直後、デビルバットたちは勢いを弱めることなくこちらに向かって体当たりをしてくる。その瞳は依然として敵意と殺意に満ちていて、鋭いツメと牙が眼前に迫る。
「ギギギッ!」
「――うくっ!」
僕は鋭いツメの攻撃を腕に食らった。服の一部が筋状に破れ、下から真っ赤な血が滲んでくる。
その場に漂う獣臭と翼の風切り音の残像――。彼らはツバメやハヤブサのような鋭い動きで瞬時に切り返し、再び僕に向かって襲いかかろうとしている。
やはり僕の力が発動するまで、まだ時間がかかりそうだ。でも岩のモンスターの攻撃に比べれば、これくらいのダメージなら全然へっちゃらだ。今のところ、毒を受けた様子もない。
それなら僕は彼らに対して想いを念じ続けるだけ。ここで諦めたら全て終わりだ。
『僕はキミたちと戦うつもりはない。だから襲わないで。友達になろうよ!』
「ギギギギギーッ!」
「――ぐっ!」
今度は太ももへの攻撃。ただ、今回はさっきよりもちょっと傷が深いのか、痛みだけでなくて熱を帯びて痺れるような感覚になってくる。わずかに目まいもする。さすがに立っているのがツライかも。もしかして毒を受けたかな……?
――だけどまだまだ大丈夫。ここで意識を逸らすわけにはいかない。激しく動かなければ毒の回りもそんなに早くならないはずだし、限界まで耐えてみせる。
僕は必死に笑みを作り、デビルバットたちに想いを伝え続ける。
『ほら、僕は攻撃をしないよ。安心して。友達になろう』
「ギ……ギギ……」
『……僕のところへ……おいでっ!』
心の底からの素直な気持ち。両手を広げ、満面の笑みを浮かべながら最大限の親しみを込めて想いを解放する。
するとこの上ない心地良さが僕の全身を包み、温かな光が僕を中心に波紋となって広がっていくようなイメージが頭に浮かぶ。
その直後――
「デビルバットたちの動きが止まっただとっ!?」
驚愕したようなミューリエの声が後ろから聞こえてくる。
事実、デビルバッドは攻撃するのをやめ、僕の肩や頭の上に止まって翼を休めている。もはや敵意も殺意も完全に消えている。
――やっぱり僕の力、モンスターにも通用するんだ!
「もしかしてこれはアレスがやったのか? ……そうか、熊を退けた時の力だな!」
ミューリエは確信に満ちたような瞳になり、納得したようにポンと手を叩いた。さすが僕のやったことの詳細にすぐ気付いたみたいだけど、驚いているみたいだから内緒にしておいた甲斐はあったかな。
僕は懐から毒消し草を取り出し、それを服用しながら笑顔で頷く。
「うんっ、ご名答。モンスターにも通じるって分かったんだよ」
「なるほど、これがアレスの奥の手か! 確かにこれなら最奥部まで辿り着けるかもしれんな!」
「でしょっ♪」
「アレスよ、これはすごいことなのだぞ! 魔族であってもモンスターの使役には苦労すると聞く。それを簡単にやってしまったのだからな。やはりお前はすごいヤツだ!」
「そ、そうかな? てははっ!」
ミューリエに褒められると素直に嬉しい。
こうして僕はデビルバットたちとの遭遇を無事に乗り越え、洞窟の探索を続けるのだった。
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https://kakuyomu.jp/works/16817139554483667802/episodes/16817139554484849873
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