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きっとミューリエは僕をからかっているんだ。あるいは挑発して発破をかけているのか。普通に考えれば確かに彼女の言葉の内容はその通りだろうと思うし、納得も出来る。
でも今の僕には可能性を無限に広げる『あの力』がある。動物や虫だけでなくてモンスターにもそれは通用する。そういう事実がすでにあるんだ。
ミューリエはまだそのことを知らない。言いたくなっちゃうけど、それはギリギリまで隠しておきたい。
僕は口から零れそうになる言葉を必死に飲み込み、素知らぬ顔をしてほくそ笑む。
「どうかな? 奇跡が起きるかもしれないよ?」
「ほぅ? 意味深な言葉だな。何か奥の手でもあるのか?」
「内緒っ♪」
「ふふ、そうか。どうなることやら……」
ミューリエはクスッと小さく笑う。その瞳はどことなく優しくて、いつになく穏やかだ。
その様子を見て、僕も思わずホッとして温かな心持ちになる。緊張の糸を張り続けて洞窟を進まないといないといけないのにね。
だから僕はすぐに気を取り直し、周囲を警戒しながら歩を進めていく。
「アレスよ、何を考えているのかは知らんが無理はするなよ? もし私が危険だと判断したら、勝手に加勢するからな?」
「えっ? その場合、ミューリエとの約束はダメになっちゃうの?」
「……残念ながらその通りだ」
「じゃ、絶対に手を出さないで!」
僕は少し強い口調で即答した。
だって今までの経験上、あの力は発動するまでに少し時間がかかると推測できるから。
つまり不意を衝くか、誰かのサポートでもない限り僕は攻撃に耐えないといけない。そして攻撃を受ける姿を見て助けに入られたら、全てが台無しになってしまう。
もちろん、これが試練と関係のない戦闘の時なら話は別だけど……。
当然、そんな事情を知らないミューリエは少しムッとしたような顔をして口を尖らせる。
「なんだと? 命の危機でも私の助けは不要だというのか? アレス、ちょっと基礎体力をつけたくらいで自惚れるのも――」
「悔いを残したくないんだっ!」
「っ!?」
「その代わり、本当にダメだと思ったら助けを求めるから。それでいいでしょ?」
僕はミューリエの方へ向き直って懇願した。
彼女が僕のことを心配して言ってくれているのはよく分かる。だけど命を賭けてでも今回の探索は乗り越えなければならない。余程のピンチにでもならない限り、助けを借りるわけにはいかないんだ。
一歩も退かないそんな僕の様子にミューリエは瞳に当惑の色を浮かべる。
「しかしな……」
「僕、どんなピンチになっても絶対に乗り越えてみせる。だからお願い」
その場に流れる重い空気と沈黙――。
やがてミューリエは大きく息をつくと、根負けしたように苦笑いを浮かべる。
「……分かった。それがアレスの覚悟なのだな。そこまで言うのならその通りにしよう」
「ありがとう、ミューリエ!」
僕が喜びを爆発させながらミューリエの両手を握ると、彼女は少し照れくさそうにしていた。
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https://kakuyomu.jp/works/16817139554483667802/episodes/16817139554484083350
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