最終夜 月読の輪廻⑦
「
「命言がしょっちゅういなくなっていたのって、このためだったのか」
「はい、命言さまは昼はコンビニ、夜は土木作業員のバイトをしておられましたが、より労働収益性の高い水商売の口を見付けられ、クラブのホステスとして勤務されていたのです。駅前のクラブ『ボディ♡コンシャス』の『ミコトちゃん』といえば、同業者の間では伝説のキャストで、町のナイトスポットを紹介する夜遊び情報誌には、特集が組まれております」
そう言って、
載ってやがるよ~、夜いなかったの、このためか~ しかも、見覚えのあるセーラー服やバニーの写真まであるじゃないか。あの衣裳、本当に命言のだったんだな~
それにしても、あんなに無口で不愛想な女が、どうしてホステスの星になれるのか?
大人の世界って、さっぱりわからん??
「わたくしも、いずれは命言さまのように伝説のキャスト『タマモちゃん』と呼ばれるように・・」
「おまえはいいよ! てか、本名で堂々と水商売する神経がわかんねぇよ!」
玉藻は、子供の顔を覗きながら、改まった口調で健造に話かけた。
「だんなさま、お嬢さまを『月読』様とご命名いただくことを進言します。お嬢さまは、いずれ成長して月読さまと瓜二つのお姿になられます。来年の四月には、これまでと遜色ないお姿になられますので、そのときに高校に復学の手続を取り、二年生に編入することにしたいと存じます」
「そうか、そのことを睨んで、おまえは休学扱いで学校に届け出てくれたんだな」
「すべて命言様が計画されたことです」
「命言か・・あいつらしい気の回し方だな」
「そして、すべての財産は月読様の名義となっておりますので、だんなさまが、月読さまのため、ご自身のためにご自由にお使いくださいませ。さしあたりは、新居の購入にあてがってください」
「いや、遠慮しておく。学費と生活費の補助はしてもらうけど、それ以外はおれがなんとかするよ。必要なら、バイトだってする。こんなにもらったんじゃ、竹取じいさんの二の舞になってしまうからな」
健造の言葉を初めから期待していたかのように、玉藻の口元が緩んだように見えた。玉藻が初めて微笑んでいる。
「だんなさまは、そういうお人であると、私が命言様から引き継いだ
「ああ、そうさせてもらうよ。こんな小さな子どもでも、この子には月読の意識が眠っているんだ。だから、恥ずかしいことなんてできないよな。下手なことしてたら、大きくなった月読に怒られてしまう。また、『ヘタレ』だなんて言われたくないからな」
幼児の月読と手をつなぐ。まだまだ幼くて、握りしめたらつぶれてしまいそうなか弱い手。だけど、その手は温かくて、生命の躍動に溢れている。
改めて、感じた。月読はここにいる。
「今日から、きみは『月読』だ。お母さんの名をもらって生きていくんだよ」
傍らの子どもに、小さく語りかける。まだ、発語がない
すると、子どもの姿に重なるように、十六歳の姿の月読が浮かんでくる。そよ風に黒い髪を揺らし、穏やかな眼差しをこちらに投げ掛けている。口元が緩んで何かを口ずさんでいるようだ。
だんなさま、またお会いしましょう・・
幻の月読が微笑んで口元が揺れていた。そんなことを口ずさんでいた。声が聞こえた。そう聞こえたのだ。
あのときの月読にもうすぐ再会できる。そんな思いで、空を見上げた。秋の空がどこまでも高く、二人の頭上に広がっていた。
月読(つきよ)の輪廻-原題「雑木林でかぐや姫を拾ったら大変なことに」- 新井荒太 @KotaArai
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