第11話 痴話喧嘩はよそでしてくれない?


 「おい、誰だ! こいつを呼んだやつは!」


 柊一は待雪さんを指差しながら怒号を飛ばす。

 待雪さんは澄ました顔で柊一の言葉をスルーする。

 彼女はラベンダー色のワンピースを着ており、ザ・清楚といった服装だ。

 長く綺麗な黒髪がよく映える。

 正に花もはじらうような少女である。


 「彼女に黙って遊びに行こうだなんて、虫がよすぎたんじゃない?」


 大袈裟に首を傾げてみせる。

 今までのやり返しだ!

 と思ったが二人のイチャイチャを見せられたら殺意が湧いてきそうだ。

 もしかして、ボーナスタイムをプレゼントしてしまったのでは?


 「彼氏になった柊一とデートの約束した」


 待雪さんは淡々としている。

 いつも通りの落ち着きである。


 「俺はお前と付き合っていない!」


 「約束破るつもり? そっちがその気なら容赦しない」


 二人は痴話喧嘩を始める。

 仲が大変、よろしいようで。


 「私、グランピング初めてです!」


 「私も、私もー」


 こちらの少女二人は楽しそうにはしゃいでいる。

 楽しそうにしているのを見られるだけで、来れてよかったと思う。

 財布の中身はほぼ、すっからかんになったけどね……


「龍斗、泣いてるの?」


 何かを察したのか杏は心配そうに僕を見つめてくる。

 泣いてないよ?

 喜びを噛み締めてるだけだよ?


 それにしても私服姿って雰囲気が変わる。


 春咲さんは真っ白なフレアスリーブのTシャツに薄いブラウンのジャンパースカート姿である。

 シンプルではあるが、とてもオシャレに見え、大人っぽさがある。

 語彙力を無くすほどに可愛い。

 女神みたいな美の権化である。


 観月さんの方は灰色のパーカーに水色のカラーパンツの組み合わせである。

 細身の彼女にぴったりの服装でこなれ感がある。

 動きやすさを重視してるところに彼女の性格が表れているように思える。

 こちらも言葉にするのが野暮ったいほどに可愛い。


 こんな美少女たちといられる時点で恵まれてるってもんだ。

 姿を見ているだけで動悸がしてくる。

 心臓に悪い。

 

 





 「六人用のコテージだが思ったより広いんだな」


 柊一はそう呟きながら、ドアの鍵を開ける。

 確かに、想像していたよりも立派だ。

 

 「じゃあ、私たち女性陣はニ階を使わせてもらうから」


 そう言いながら、観月さんは階段を上がっていく。

 ではと言いながら、春咲さんもそれに続く。


 「私は柊一と同じ部屋にいる」


 「はぁ? 何言ってんだ? お前も早く行けよ」


 柊一は正気を疑う目を待雪さんに向ける。

 面倒だと言わんばかりにあしらおうとしている。


 「夫の世話をするのも妻の役目」


 「付き合ってることを否定したからって、一足飛びに夫婦になったってわけじゃないからな!」


 柊一は必死の形相でツッコミを入れる。

 もう諦めたらいいのに……


 「僕と杏はそこの畳の部屋を使うから、後はお若い二人で」


 僕はそう言いながら、荷物を持ち直し部屋へ向かう。

 じゃあねと言って、杏も僕と一緒に動き出した。


 「あっ、お前ら俺を裏切るつもりか!」


 「僕は空気を読んでいるんだ!」


 こいつは何を言っているんだ?

 裏切るもなにもただ、気を遣っているだけじゃないか。

 後、普段と違って取り乱しているところを見るのも楽しいしな。


 「藍崎、いい人。柊一、観念して」


 「こっちに近づいてくるな! 早く二階に行ってこいよ」


 襖を閉めると同時に人とは思えない悲鳴と、人間から聞こえてはいけない音が聞こえた気がする。

 骨が軋む音といったらいいのかな?

 



 結局、今回は柊一が粘り勝ち、彼女は二階へ行ったようだ。


 「龍斗、杏、手伝ってくれ」


 柊一は襖を開け、応援を求めてきた。

 激しい戦闘だったのだろう……

 あ息も絶え絶えになっている。


 「何するの?」


 「バーベキューの準備だ。物を運ぶのと火をおこすぞ」


 基本的にこいつのお願いはろくなことがないから、内心ビクついていたけど、取り越し苦労だったようだ。


 「いいよ!」


 杏は元気よく返事をして外へ出る。

 まぁ断る理由もないから、僕も手伝うことにした。




 「矢桐君は本当に器用ですね」


 「立派な父親になりそうだなー」


 「私の自慢の夫」


 女性陣は口々に柊一を褒め称える。

 僕たちも準備はしたんだけどな……

 と思ったが火起こしは柊一が一人でやってしまったので何も文句は言えなかった。


 「だから、夫婦じゃねぇ! それと観月、柊佳をいたずらに刺激するな!」


 柊一は不満そうにしている。

 今日一日でだいぶ疲れてそうだな。


 「まだ、時間かかりそうだし前菜でも作らない? ついでに料理対決みたいな」


 楽しそうに観月さんが提案する。

 わざわざ、こんなことをするってことは相当腕に自信があるのかな?


 「いいですね! やりましょう」


 春咲さんもその話にのってきた。

 まぁ料理対決するっていっても食材はそんなに種類がないから難しそうだけどな……


 「なら、私もやる」


 待雪さんも参加を表明する。

 こうして、女性陣による料理対決が突発的に始まったのだった。

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失恋してから変人達に好意を持たれるのだが、僕の高校生活は大丈夫なのだろうか? 秋海棠 白音 @Shukaido6456

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