第55話 少女の異変2
一面が焼け野原になっている。
黒い地面が剥き出しの山々には、消防士や警察など大勢の人々で賑わっていた。
そんな光景を一回り高い崖から見下ろすのは黒い軍服の男性だ。黒髪をオールバックにしており、鷹のように鋭い目つきをしている。
「おー!こりゃまた派手にやったな…世間にはどう説明すんだ?」
黒い軍服の男性の背後には、もう1人、同じ格好をした人物がいた。
茶色の癖毛を直すこともせず、どこか緩い印象のある男性だ。
「あの山が噴火したことにしている」
オールバックの男性は、景色の奥に見える山体崩壊した山を指差す。
その崩れた山を見つめる茶色の男性は、どこか呆れたように笑っていた。ここまでするかという笑顔であろうか。
「へぇ…で、キリュウイン家には何て説明するんだ?」
「すでに連絡済だ」
「怒られなかったのか?」
「…周辺住民の被害者はなしだ。高速道路と周辺の賠償金だけで構わないそうだ」
「あのキリュウイン家とは思えない気前の良さだな」
茶色の髪の男性は、茶化すように肩をすくめる。
「周辺住民に被害者が1人でもいれば、阿修羅の如く激昂していただろう」
「そりゃそりゃ…で、肝心の対象は見つかったのか?」
茶色の髪の男性の言葉に、オールバックの男性は首を横に振って答える。
「…シュクト様からの報告は?」
今度は、オールバックの男性が、茶色の髪の男性へ尋ねる。
「この一帯にはいないそうだ。急に気配が消えたとさ」
急に気配が消えた。
物理的にも、目視でも、魔術的にも、彼らはユウタの位置をしっかりと捉えていた。
それがまるで瞬間移動でもしたかのように、痕跡すら残さず、行方をくらましている。
「認識阻害や転移系の魔法が使われた痕跡はない」
オールバックの男性は懐中時計のような計器を取り出す。
円形の時計のような計器には、赤い針と緑の針と白い針があり、赤い針は「10」と書かれた箇所へ、その他の針は「0」と書かれた箇所へ向けられている。
周辺の空間に残留している魔力の数値と濃淡を調べる計器であり、記されている数値によって、そこで使用された魔術の魔力量や規模、効果などを調べることができる。
赤い針だけが動いているということは、攻撃的な魔法が使われた痕跡しかないということであった。
「ああ、聞いてるよ」
「…死ぬ直前だった筈だ…あの状況でどうやって…」
「俺が知るかよ。むしろ、それを知ってたら任務終了だ」
オールバックの男性は怪訝な顔でそう尋ねる。
しかし、どうやって姿を消したのかは、茶色の髪の男性だってわからないことだ。
「魔法じゃないなら、何かの兵器か?」
「んー、どうだろうな」
「…科学的な痕跡もないのか?」
「ない」
「なぜ断定できる?」
「シュクトの旦那も対象を見逃すほどだぜ?」
「…ふむ」
2人が黙り込むと、その場にしばしの沈黙が訪れる。
しかし、しばらくすると、茶髪の男性のポケットで何かが振動する。
すると、茶髪の男性は携帯電話をポケットから取り出して、それを耳に当て始める。
「…了解しました」
簡単にそう言って通話を終える茶色の男性
彼はすぐにオールバックの男性へ言葉を放つ。
「いずれにせよ、ここはシュクトの旦那に任せて、俺とシュバルツは帰国だ」
「…帰国だと?」
「例の女の子に動きがあったそうだ。応援がいる」
ーーーーーーーーーーーーーーー
メリーとシェリルは校長室の前に立っていた。
辺りは休憩時間ということもあり、生徒の往来もあって騒がしい。
「…ね、シェリル」
「うん」
「罠だと思う?」
「罠?」
メリーの言葉に怪訝そうな顔をするシェリル
「あの本に、この国はムフェト家に支配されてるって書いてあったから、もしかしたら、校長先生だって…」
メリーがそう言うと、シェリルは思わず笑う。
「メリー!考え過ぎよ!」
「…そうかな」
「この間の件の表彰でしょ、ほら、さっさと行きましょ」
「…うん」
シェリルに背中を押されるようにして、メリーは校長室へと入っていく。
校長室の奥には窓があり、その手前に机と椅子が置かれている。
部屋の中間には、応接用のテーブルがあり、そのテーブルを挟むようにして黒いソファーが置かれていた。
奥の机には校長先生が座っており、メリーとシェリルに気付くと、入り口の2人へ視線を向ける。
「あ、あの!来ました」
メリーは不安そうな顔で校長先生へ言うと、髭を蓄えた年配の男性はニコリと笑う。
「やぁ!我らがヒロインのご登場だね!」
校長先生は柔和な笑みを浮かべて椅子から立ち上がると、机の上に置かれていた筒を手に取って、2人の前まで進み始める。
「これ、今日、届いた表彰状だよ」
校長先生は柔かにそう言って、筒の蓋を開ける。
ーーーーーーーーーーー
埃だらけの一室には、1人の男性がいる。
彼は窓の外から双眼鏡で何処かを覗いているようだ。
そんな彼が急にガッツポーズをし始める。
「…爆炎が見える。任務終了…ヒャッハー!!!」
メガネのガリガリの男性はハイテンションでそう叫ぶ。
彼が覗いていた先は、キルキルル州にあるとある中学校だ。
その中学校からは黒い煙が上がっており、どうやら爆発が起こったようだ。
「なぁ!おい!これで俺の刑期は終了だよな!?」
男性は背後を振り返ると、そこには黒い軍服の男性がいた。
彼は首を縦にも横にも振らず、ただ無表情で言葉も話さずに立っている。
「なぁ!おい!」
「…確認中だ」
「馬鹿言え!あの爆発だぜ?死んでるに決まってんだろ!?なぁ!?」
「…」
「メスガキが校長室に入ってくの見たんだ!?間違いなくミンチさ!」
「…」
「あー!はいはい!」
メガネの男性はまるで応対する気のない軍人に辟易とした様子だ。
そのまま埃だらけのソファーに、倒れるように座ると、部屋中に埃が舞い上がる。
「…」
すぐに軍人のポケットにある何かが震え始める。
「おい、電話だぜ?」
メガネの男性に言われるまでもなく、軍人はポケットからゴツいスマホを取り出すと、すぐに耳にあてる。
「…はい。こちらチャーリー」
「…」
「…了解」
軍人が通話を終えると、メガネの男性は満面の笑みをみせる。
「確認がとれたか!?」
「ああ…任務続行だ」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「…嘘」
閃光が晴れると、メリーは真っ黒な炎に包まれていた。
部屋は吹き飛んでおり、目の前にいた校長先生の姿はカケラも残ってなどいなかった。
「シェリル!?」
メリーはハッとして、背後を振り返る。
吹き飛ばされたドアと一緒に、廊下で倒れているのはシェリルだ。
「…シェリル!!」
メリーはすぐに彼女へ駆け寄ると、その容体を確認する。
「…心臓動いてない」
全身が真っ黒に焦げており、ボロボロの状態のシェリル
もはや生きているのか死んでいるのかすら分からない状態だ。
「嫌…嫌っ!!!」
メリーは倒れているシェリルを抱き抱える。
こんなところで、親友を失ってたまるかという彼女の気持ちが、魔力に反応し、奇跡が起きる。
「…メリー?」
「っ!?」
メリーが抱きかかえていたシェリルの焼け爛れた肌が元通りになっており、焼けた髪も目も指も、すべて元通りになっていた。
「シェリル!?」
「…私?」
「…シェリル!!」
「っ!痛い!痛いよ!メリー!」
メリーは無事であったシェリルを激しく抱きしめる。
「…それよりも!何だかヤバそうな感じよ!!」
「へ?」
シェリルは吹き飛んだ校長室の窓から校庭を指差す。そこには真っ黒なバンが何台も続々と駐車していく姿があった。
「…生存者がいるぞ!!こっちだ!!」
「…」
急に響いた男性の声に、メリーとシェリルはビクっと肩を震わせる。
その声のする方向へ視線を向けると、叫ぶ男性教諭に導かれるように、黒い軍服の男性が向かってくるのが見えた。
黒い軍服の男性は、メリーを見つめながら、どこかへ電話している様子だ。
「ん?お前ら見ないか…」
次に銃声が響く。
「逃げましょ…!!!」
「…へ?」
男性教諭の頭部が撃たれる。
銃の引き金を引いたのは黒い軍服の男性だ。
「メリー!逃げるわよ!!」
「…あ、う、うん!!」
シェリルに引っ張られて立ち上がるメリー
2人はすぐに吹き飛んだ校長室を突っ切ると、屋外へ出る。
「…追ってくるわ」
「うん」
シェリルとメリーが背後を振り返ると、黒い軍服の男性が駆け寄ってくるのが見えた。
2人は建物と建物の隙間を駆け抜けて、校舎裏へと辿り着くと、フェンスにしがみついて登り始める。
「…!」
メリーは自分でも信じられないぐらいスイスイとフェンスを登りきってしまう。
あっという間にフェンスの上に立つメリーは、すぐにシェリルの様子を確認しようと下を覗く。
「シェリル!?」
シェリルはフェンスをなかなか登ることができずに、ほとんど地面に近い位置で踠いていた。
「…先に行きなさい!!狙いはメリーよ!」
シェリルは諦めて、メリーへそう叫ぶ。このままついて行っても、自分は足手まといになると彼女は判断していた。しかし、その申し出はメリーにとって到底受けられるものではない。
「でも!」
「良いから!!」
「…っ!」
メリーは額に何かが当たる感触がした。
遅れて銃声が響き渡る。
「…間違いない!!勇者か戦士だ!!排除しろ!」
「撃て!撃て!!」
校舎裏にはゾロゾロと黒い軍服の男性達が銃を構えて集まり始める。
彼らは無遠慮に、情け容赦なく、メリーへ銃口を向けては、その引き金を引いていく。
「逃げて…!!」
シェリルは射撃を浴びているメリーへそう叫ぶ。
すると、彼女に気づいた黒い軍服の男性が、シェリルへ銃口を向け始める。
「シェリル!?」
メリーが慌てて飛び出そうとするが、シェリルを撃とうとする男性を、別の軍人が止める。
「待て!その子は殺すな!人質にする!」
「はっ!」
フェンスにしがみついているシェリルの肩を掴んで捕らえようとする軍人へ
「やめて!!!」
メリーはジャンプしてフェンスから飛び降りると、その軍人の顔面へ足を伸ばす。
まるでトマトを踏み潰したような感触がすると、その軍人の頭部は瑞々しい破裂音とともに血飛沫をあげていた。周囲には血肉の雨が舞っていた。
「うそ…」
メリーは硬直していた。
初めて人を殺した衝撃にではない。
「…ウボルグル…グァアアル!!!」
頭部が粉砕された軍人の首から何かが溢れ出すと、ウネウネとしたタコのようなものが代わりの頭部として生えてくる。
「…こいつら…人間じゃない!!!」
【魔王ゲーム】人狼みたいなデスゲームに招待されたら魔王になった件について @tototete
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