第38話

 ハイスはクリフを失い、怒り狂うかのように雄叫びを上げる。


「冷静さを失ってる。混乱させるために散って攻撃するわよ」


 アリスが指示を出す。

 俺達は固まらないように距離を取った。


 指示を出す者を失ったハイスは、手当たり次第、火炎ブレスを連発し始める。


 威力は凄まじいが、能力の使用回数の消費も激しいはず。

 このまま避け続けて、チャンスを待つ!


「――炎が止まった。能力が尽きたのね」

「みんな、やっちゃうよ!」


 ハンナの合図と同時に、俺とアリスはロングソードで胴体を斬りつけ、ハンナは斧で斬りつけた。


 最後にゴーレムが胴体をパンチで攻撃すると、ハイスは堪らず悲鳴を上げ、大きな翼を広げて、バサバサ……と空へと上がっていく。


「リトルちゃん。逃がしちゃ駄目よ!」


 ハンナがそう言うと、ゴーレムは腕を伸ばして、ハイスの左足を掴む。


 さすがにゴーレムだけの力で抑えきれないようで、少しずつ引き摺られていく。


「コリン! チャンスよ!」

「分かってる。リープ・リフレクトッ!」


 俺は剣を鞘にしまうと思いっきり、ハイスに向かってジャンプをする。


「みんな、危ないから退いてろよ。――リフレクト・ストライクッ!」


 まずはハイスをリフレクト・ストライクでリングに叩きつける。


 リングが壊れるぐらいの勢いでハイスが叩きつけられた瞬間、隕石でも落ちてきたかのような重たく大きな音が会場に轟き、砂ぼこりが舞う。


「これで最後だ。ハイスッ!」


 俺は精一杯、リフレクトシールドを張った掌でハイスの体を両手で押すように掌打を繰り出す。


「ツイン・スラストッ!!!」


 ハイスは気絶をしているのか、ピクリとも動かず、吹き飛ばされていった。


「――クリフ選手のパートナー。レッドドラゴンが場外ですが、ここで残念なお知らせです」


 残念?


「レッドドラゴンがリングに叩き落とされた際、終了のゴングが鳴っていたのです。よって、これにて試合終了となります!」

「なんだって……」


 観客達は納得いかない様で、レフェリーに向かってブーイングの嵐を浴びせている。


「申し訳ございません。私も納得いきませんが、ルールはルールなので、優勝者は無しで終了となります! 皆さん、残った選手に拍手を」


 観客達は渋々ながらも、拍手を始める――。

 だが、次第にその拍手は大きくなっていった。


「シールドキャット、最後の一撃、良かったぞー」

「決着はつかなかったけど、楽しかったぞ~」

「次回は決着をつけてくれよ~。楽しみにしているぞ~」


 観客席から様々な声が飛び交う。

 俺は観客の歓喜の声を聞き、快感でゾクゾクッと体を震わせる。


「キャットちゃん。このままじゃ悔しいから、また勝負しようね」


 ハンナは握手を求めて右手を差し出す。

 俺も右手を出し、握手をした。


「あぁ」


 ハンナはニコッと微笑むと、手を離す。

 俺に背中を向けると、手を振りながらリングの外の方へと歩いて行った。


「リトルちゃん、行くよ~」


 ハンナを見送っていると、アリスが近寄ってきて俺の隣で止まる。


「本当に悔しかったわね」

「そうだな。でも、こいつ等と戦えて有意義だったよ」

「そうね」


 俺は右手をギュっと握る。


「また出ような」

「うん!」


 アリスは俺の腰に手を添えると、ニコッと微笑み返事をした。

 俺達はリングの外の方へと歩き出す。


 ライバルはクリフだけじゃない。

 もっともっと強くなってやる!


 俺はライバルと戦える日を楽しみにしながら、リングから下りた。

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今は最弱と呼ばれている僕だけど、あとになって欲しいと思っても、もう遅い。 その頃には洞窟の最深部で、大切な人の願いを叶えている 若葉結実(わかば ゆいみ) @nizyuuzinkaku

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