第2話 地上最強系女子は秘密の恋を隠し通す
人でごった返す繁華街。
あたしは女子中高生で溢れるショップのプレゼントコーナーに立っていた。まるで、好きな男子へのプレゼントを買いにきたように。
違う、これは違うんだ!
そ、そう、手当してもらったお礼だ。彼のハンカチをダメにしてしまったし。代わりのハンカチを渡すだけなんだ。ちゃんとお礼も言えずじまいだったしな。
自分に言い聞かせながら、素早くプレゼント用のハンカチを手に取ると買い物を済ませる。
キラキラ女子達が多い場所は苦手だ。誰も他人のことなど気にしていないのかもしれないが、どうしても自分には場違いなのだと感じてしまう。
店を出てから隣にある映画館のポスターに目が行く。来週から今話題の映画が上映されるようだ。
「映画か…………」
犬山って、こういうの好きなのかな? ま、まあ、一緒に映画なんてデートみたいなの、ありえねえけどな。
「ありがとうございましたー」
映画館のチケット売り場の女性の声がする。
「はっ! 何で、あたしの手に映画の前売り券が二枚……」
あたしの脳が乙女モードになっているうちに時が加速したのか、いつの間にか前売り券を二枚買ってしまっていた。
あああああっ!
あたしのバカぁぁぁぁ!
こんなん渡せるわけねーだろ!
その時は、そう思っていたはずなのに、不思議もので人というものはたまに根拠のない自信が溢れてくる。なぜか『行ける!』っと思ってしまうものなのだ。
そう、お礼なんだ。
ハンカチのお礼としてさり気なく渡せば行ける! 成功率は75%くらいだ。たぶん。
そのまま家に帰り、お礼のハンカチと一緒にチケットをカバンに入れた。
――――――――
家ではあれだけ根拠のない自信があったのに、いざ学校でプレゼントを渡そうとすると決心が鈍ってしまう。成功率75%はいったい何の統計だったのだろうか?
グズグズしているうちに放課後になってしまった。あたしは犬山を探して校舎内を歩く。教室にカバンが残っているから校舎内にはいるはずだ。
「ななっ!」
廊下の角を曲がったところで、とんでもない光景を見てしまう。犬山がクラスの女子と話している。
ガァァァァァァーン!
ドサッ!
教室の席に戻り、机にぐったりと突っ伏した。
だよな……
男子って、ああいう女子が好きだよな。あたしみたいな地上最強伝説を更新中の女なんて。
終わった。あたしの初恋終わった……いや、始まってさえいなかった。
「うううっ……
「何が世知辛いの?」
いつの間にか目の前に犬山がいる。
「はああああっ! おまっ、いつから?」
「今だけど」
「ならいいや……」
犬山は、あたしの気持ちなんて知らない顔して突っ立っている。
「岩熊さん、脚の怪我はもういいの?」
「ああ、もう治ったけど」
「なら良かった。傷が残ったら大変だから」
何であたしに優しくするんだよ。忘れようと思ってんのに。
そうだ、せっかくハンカチ買ったんだし、それを渡して最後にしよう。それでキッパリ諦めよう。
「あのさっ、あの時はありがとな。ハンカチをダメにしちまって」
「気にしなくてもいいのに」
「代わりの買ってきたから」
カバンからプレゼントを取り出す。
ファサッ!
一緒に入れてあった映画のチケットまで出てしまい、ヒラヒラと宙を舞って犬山の足元に落ちた。
「あっ、何か落ちたよ」
犬山がチケットを拾い見つめている。
「これ、最近話題の映画……」
「やるよ。それいらねぇから」
「でも……」
テンパったあたしは余計なことを言ってしまう。
「親が誰かにもらってきたんだよ。あたしは興味ねえから犬山にやるよ。猫宮とでも行ったらどうだよ」
「何で猫宮さんの名が?」
「仲良いんだろ?」
「べつに……」
「そ、そうなのか?」
「さっきも何かの当番押し付けられそうになったから逃げて来たんだよ」
なっ、なななっ!
猫宮とは何でもないだと!
「そうだ、岩熊さん。一緒に行かない?」
「は? はああああ!? 何で、おまえと一緒に行かなきゃならねえんだよ! バカなのか!?」
「えええ……嫌ならしょうがないか」
「い、嫌じゃねーし! クラスの奴らに見られたら恥ずかしいだけだし。ま、まあ、おまえがどうしてもあたしと行きたいのなら、行ってやっても良いけどさ」
あたしのバカバカぁ~っ!
バカはあたしだった!
何で上から目線だよ……せっかく犬山から誘ってくれたのに。
「なら一緒に行こうか?」
「は?」
えっえええっ!
まさかの展開? 何かよく分からんけど成功したのか?
「あっ、自分のチケット代は払うよ」
「いらねーし! ハンカチのお礼に買ったんだから、ありがたく受け取っとけよ」
「さっき親にもらったって言ってたような?」
しまったぁぁぁぁ!
ボロ出しまくりだ!
「こ、こまけえことを気にすんな!」
「ええええ……」
「おまえが一緒に行きたいって言うから行くんだからな」
「うん」
「それで良いだろ」
「分かった」
あたしは無理やり話を持って行った。これ以上ボロを出すわけにはいかない。
ふと、犬山の顔を見るとニヤニヤしている。
「何で笑ってんだよ!」
「だって、岩熊さんと映画に行けるのが嬉しくて」
「うっ、ううう…………」
かぁぁぁぁ――
ダメだ。家まで
「じゃあ、帰ろうか?」
「うん」
犬山の声に、素直に返事をしてしまうあたし。まるで、あたしがあたしじゃないみたいにふわふわした感じだ。
「急に素直になったね」
「うっせぇよ!」
ぶっきらぼうに返しながらも、顔が真っ赤なのでバレバレだ。まさか、あたしが男子とデートとは、慕っている後輩女子達が聞いたらビックリすることだろう。皆には内緒にしようと思っているのに、これではバレるのも時間の問題かもしれない。
「でも、良かった。岩熊さんと仲良くなれて」
「おい、なに言い出してんだよ」
まさか、こいつ……
「実は……ずっと秘密にしてたんだけど、前から岩熊さんのこと
「は? はあああ!? あたしのドコが良いんだよ? ガサツだし男みたいだし……」
「いや、だって可愛いから……」
「うううっ……もう許してくれぇ……」
そろそろ限界なあたしは、両手で真っ赤な顔を隠してしまう。
やっぱり隠し通すのは無理そうだ。
どこまでクラスメイトや後輩に隠すことができるのか分からないが、こうしてあたしの恋に青春にときめく花も恥じらう乙女な生活が始まろうとしていた。
地上最強系女子岩熊紅愛は告りたい みなもと十華@書籍化決定 @minamoto_toka
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