魔王が最強たる所以『約1000歳のひきこもり』


最近の楽しみは人間界で流行っているらしいゲームなるものを攻略することだ。


「魔王って遠いよな。勇者も苦労するもんだ」


「魔王様! なぜあなたが勇者になるゲームをやってるんですか!」


「面白いよこれ。勉強にもなる」


「あなた、明日は我が身だということをわきまえていただきたい」


「そう言うなって。この世界に君臨して1000年。科学と呼ばれる鉄と鋼と妖術の世界に我ら魔族が魔法を持ち込んだことで、この世界は大きく発展しただろう。だったら俺だって、その恩恵を享受していいじゃないか」


 執事がため息をつく。


「昨日も申し上げましたが、ゲームの中ではなく本当の勇者一行があなたを討伐しようとここに向かっているのです。既に四天王は倒され、残りはあなただけなのですよ」


「わかってるよー。じーちゃんも心配性だな」


仕方なく俺はゲームを一時中断し、じーちゃんの期待に応えることにした。


部屋を出て、玉座の間でもう1つの趣味兼義務に勤しもうも思い部屋を出ようとする。


その時、俺の愛人であるユウカが焦った様子で部屋に入ってきたのだ。


「魔王様! 勇者がもうすぐ城下町に着きます! 真っすぐ突撃してくるかも」


(え? 昨日港町レヴェルだったよね。頑張りすぎじゃない?)


執事じーちゃんが顔面蒼白。


「速すぎる。各員に戦闘態勢を」


さすがにこれは俺も予想外だ。ちょっと本気を出す必要があるかな?


「ユウカ。玉座の近くに。じーちゃんは俺の指示があるまで待機。俺は玉座の間に向かう」


「は!」


「分かりました」


俺らしくない黒の甲冑と禍々しいマントを、ふわふわパジャマの上に装着し、ちょっと暑いかもと思いながら、仕事場へ向かう。




城下町の魔道浮遊監視カメラで勇者の姿をとらえる。こいつは俺の使い魔みたいなものだ。強力なステルス機能で現在まだ見つかっていない。


「魔王様。どうして見ているのですか? すぐに攻撃しないと」


「ユウカ。僕がどうしてこれまで倒されなかったと思う?」


「さあ、私は魔王様の仕事場を見たことが在りません。いつもは執事様に部屋に閉じ込められてしまうので」


「あらら、じーちゃんやらかしたな今回。だがこれで俺が自堕落なだけじゃないと証明できる」


俺は勇者一行を見て、考えをめぐらす。


「この世界には勧善懲悪の物語が多かった。故に、正義の味方がどんな形で魔王を倒すのか、そのデータベースがたっぷり。俺もまだ勉強中だけど、人よりはその点物知りだと思うよ」


「それが、なんです?」


「俺は相手を見るだけで、俺と会った時どんな攻撃をするか分かるのさ。もちろん、そういうふうに誘導するという点もあるけどね」


「すごい……!」


「まあ、たまに外れるけど。その時は持ち前の能力の高さでカバーだ」


さて、そろそろ見るか。


勇者。頭まで甲冑かぶってるとか真面目だな。背中にはレーザーブレードの大剣を背負っている。物理技が多いが、勇者となると結構万能系だ。こういう相手は一番対応に困る。


だが、俺と会ったらまずは防御を固めてくるだろ。自分を守るか、味方をサポートするか。そして万全な状態になったころに俺を攻撃する。と思う。だって、堅実な戦い方をしないなら、装備はもう少し攻撃的だろ。


ハンターがいるな。弓を持っているところ遠距離系を得意とするのが一般的だが。こいつはたぶん近距離も行ける。そんな気がする。なんか、傷の付き方がどうもハンターぽくないような。俺も警戒しないと一手取られるな。


魔法使いがいるな。……なんかそれにしては男前だな。いや、たぶん女だけど目がキリっとして、男勝りなのか。なんかこいつも近づいたら殴られそうだな。むやみに近距離戦はしない方がいいか?


最後は賢者さんだな。おお、可愛い。


「勇者様?」


ヤバイ。このまま鼻を伸ばしていては勇者の前にユウカに殺されてしまう。


「愛人が増える分には構いませんが、仕事はしっかりお願いします」


「はいぃ」


怖いよな。


さて、……なんかこいつも近接戦に強そうだな。なんなの、武闘派なのこのチーム。怖い怖い。だってどうも足遣いが元戦士なんだよな。


「さて、対策を講じますか」





「ばかな……」


勇者の甲冑の中が女性だとは思わなかったな。


「どうして近づいてこなかった。徹底的に遠距離攻撃を防いだのに、近接戦で来るよう仕向けたのに、君は頑なに近づいてこなかった」


「そうだよ」


「なぜ?」


「だって近づいたら危ない気がしたから」


いや。本当に危なかったよ?


まさか全員カウンターの達人とは。近づけばそこから袋叩き。死ぬだろうね。


「ユウカ。サポートありがとう。元勇者」


「は?」


にっこり俺に微笑んでくれた。


「馬鹿な。君はなぜ魔王に与しているのだ」


「え……、なんでだっけ?」


説得(意味深)をしたのは秘密。


「まあ、魔王軍は今までそうやって大きくなったんだ。それで俺の遊び相手になってくれている。だって俺だけだと寂しいからね」


「ふざけてるのか!」


「でもそれが真実だし。さて四天王という最強の遊び相手もやられちゃったし」


俺は悪い笑みを浮かべて、ぐったり倒れている勇者に決め台詞。


「お前も魔王軍に入らないか?」


「選択肢はないくせに」


「そうだよ」


手下を呼んでお部屋へ案内することにした。




さて、ゲームの続きをするか。

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とざきとおる短編集 とざきとおる @femania

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