たっといお方のとうとい一面『とうといは深いな』

そんな俺にも1つの極めようとしている趣味がある。


オンラインゲーム、『モンワーライフ』。5年前からサービスを開始して大ヒットしているオンラインゲームだ。


簡単にどんな世界観かを説明すれば、モンスターと一緒に暮らしながら、お金を稼いいだり、趣味を楽しんだり、借金を返したり、お店を経営したり。本当にモンスターのいる世界でいろいろできる。


まあ、たまに悪い奴が表れて、街に襲い掛かってくるのだが、そこらへんは刺激を求めているバトルジャンキーな過激派ゲーマーたちに任せるとしよう。


俺の心は非常に穏やかだ。


その1つの原因と言えば、やはり俺が『尊い』研究家をやっているからかと思っている。


『尊い』。『たっとい』と呼ばれ、崇高、偉大の念を表す形容詞。神聖、高貴で近寄りがたいという印象を受けるような感情を伴うはずだ。


しかし、俺が今追いかける尊いはちょっと別の尊いなのだ。


最近俺はゲームの中でハマっていることがある。


妖系のモンスターが数多く人を驚かせようとたむろする霊山。その頂上には神社があって、そこには神を自称する狐の九尾と耳を持った美しい女性がいる。


俺が最初にその人を見つけたのは、ちょうど街外れを歩いていた時のことだった。


一目で体が震えたものだ。


その時はちょうど百鬼夜行イベントの最中で、怖い妖怪の前を歩き、さっき言ったバトル好きの元気な奴らをもて遊ぶ姿はヤバかった。


傲慢にして残酷。バトルジャンキーをあざ笑う中で見せる1つ1つの動きが気品に溢れている。まさに『たっとい』お方だと分かった。


しかし、悲しいかな。それでは俺には刺さらないのだ。


俺の好きな『尊い』はそんなものではない。


なんというべきか。素直に推せると思えるチャーミングなポイントが欲しいのだ。


そう、俺は『尊い(とうとい)……』という感情を研究す尊い研究家なのだ。


そして、俺は最初に何の変哲もないと言ったが、この点に関しては恐ろしい執念がある。


俺は尊い研究家として、誰しもが尊いと思われる方法を探し求めなければいけない。尊いという感情はどういう状況から現れるのか、その真理を探究し、いつか俺も尊いと言われたい!


故に、ただ刺さらないからと言って、諦めるわけにはいかなかった。


あの人の、推せるチャーミングポイントを必ず見つけてやる。


え、なに? 狐の尻尾と耳があれば推せる。


違う! そんなものは可愛いという感情でしかない! いや、否定はだめだな、世の中にはそういう視点で推しを決める同胞もいるのだ。


しかし俺は研究家だ。人が誰かを推すのに、可愛いという感情だけで決めていると断定しては研究家としての意味がなくなってしまう。


故に俺は何をしたか。


その神を追い回した。


「やめろ、死ぬぞ!」

と、何度言われたことか。そりゃそうだ。ゲームの中とはいえ、神様をストーカーするなど、言語同断、ぶっころ案件だ。


それでも、きっとあの人を尊いという推しが付くとしたら、尊い(たっとい)ではないチャーミングポイントを見つけるはずだ。研究家として、そういう一面を見つけられたら新たな発見となる。


故に追い回した。


たまに怖い目に合っても霊山をずっと歩いて、彼女を見かけては見失うまで追いかけた。


そして、2か月。


デイリーミッションをやる時間も忘れ、遂に彼女の推しポイントを見つけた。


彼女が寝床としている社では、月に一度、妖の子供たちが集まるそうだ。


そしてそこで、将来の百鬼夜行に加わるだろう子供たちの先生として様々な知識や技能を彼女が教えているのだが。


彼女は、若干ドジっ子だった。


誰かに教えるということが慣れないことなのだろう


よく転び、しゃべっているとよく噛み、子供に意地悪されても、怒る事なく『もーやめて、ひどい』子供っぽい反応を返す。


下で魅せた傲慢も残酷性もない、ふわふわとした雰囲気で失敗ばかりしていて、それでも、近寄りがたい美しさの中に見出せる可愛さ。


おお。おおおおおおおおおおおおおお!


うおおおぁぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


推せる!


刺さった。


これだ。やっぱり俺の行動は間違ってなんていなかった。今のあの神様の姿を見て、一言。


『とうとい……』


あの人が『尊い』人になった瞬間だった。


そう、誰しも、尊いポイントはある。俺の研究家としてのキャリアにまた1つ確かな足跡を残すことができた。


しかし、これは始まりに過ぎない。


きっと、あの人にはまだ推せる『尊い……』ポイントがあるはずだ。


それを捜すため、また彼女を追いかけることにしよう。


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