<卒業> 5
「・・その誰かが俺だと言いたいのか?」
そう言って俺は小さく息を吐き出した。
池田は大きく頷いた。
「こ、これまで何度も同じ一年間を・・
く、繰り返してきたけど・・
こ、この一年は特殊だった・・
あ、明らかに・・
き、君の言動がおかしかったんだ・・
き、君は僕の知ってる『あっくん』とは・・
ち、違う・・
き、君は誰・・?」
池田の目は微かに怯えていた。
しかしそれは俺も同じだった。
池田の話は俺の頭と心を激しく混乱させた。
池田の話で「前世」における長年の謎は解けた。
解けた?
それは池田の話を信じるならば、だ。
しかし。
この話はどこまで本当なのだろうか。
悪い夢を見ているような気がした。
俺は池田に気付かれぬよう太ももをつねった。
はっきりとした痛みを感じた。
「俺は・・」
出かかった言葉を飲み込んで
俺は池田から目をそらした。
「き、君が熊谷君・・
さ、猿田先生・・
そ、そして××××△△を殺したの・・?」
「・・俺は」
俺は池田の目を見つめ返した。
「大吾もボス猿も殺してないよ」
しばらくすると池田は目をそらした。
「・・それでも、
俺は二人の死に責任を感じている」
これは本心だった。
「ふ、二人・・?」
池田は困惑した表情を浮かべた。
その時、
校庭の方から校歌を歌う子供達の声が
聞こえてきた。
「・・もういいか?
皆が待ってるから俺は行くぞ」
俺はこれ以上池田と話すつもりはなかった。
俺は池田に背を向けた。
「・・そ、相馬さんのために!」
背後から池田の声が飛んできた。
池田がこんな大きな声を出すのを
俺は初めて聞いた。
俺はゆっくり振り向いた。
「き、君は・・
×、××××△△を殺したんだよね・・?」
俺は小さく溜息を吐いた。
「そう聞かれて『私が殺しました』
と答える人間なんていないだろ?
それに謎は謎のままのほうがいい時もある」
池田は俯いた。
「そ、それでも・・
ぼ、僕は知りたい・・」
顔を上げた池田が力なく呟いた。
「どうしても知りたければ調べてみたらどうだ?」
「ぼ、僕にはもう時間がないから・・
そ、それに・・
つ、次に会う君が今の君とは限らないから・・
こ、この一年の謎だけは・・
ど、どうしても・・
き、今日中に解き明かしたいんだ・・」
池田はそう呟くと肩を落とした。
俺はポケットに手を突っ込んだ。
ひんやりとした金属に手が触れた。
あの日以来、俺はずっとこれを持ち歩いていた。
いつでもあの扉を開けて
その先の光景を確認できるように。
しかし俺にその勇気はなかった。
教師達は日々の業務に忙殺されていて、
屋上の存在など忘れているようだった。
冬休みの間に
校舎の裏の××××の車は
どこかに移動させられていた。
そして姿を消した××××は
行方不明者として扱われていた。
△△室の私物も車も特に荒らされた形跡がなく、
事件性はないと結論付けられたようだ。
「手品の種明かしはルール違反だ」
俺の言葉に池田は悲しそうな表情を浮かべた。
そんな池田を見て俺は小さく溜息を吐いた。
「・・種明かしはルール違反だが、
ヒントくらいは出してもいい」
俺はポケットから鍵を取り出して池田に投げた。
池田は鍵を掴むと不思議そうに眺めた。
「こ、これは?」
「文字通り、お前の謎を解いてくれる鍵さ」
そして俺は教室を出た。
池田は鍵が屋上の扉のモノだと気付くだろうか。
勘のいい池田のことだ。
気付くに違いない。
手掛かりならいくつかある。
扉を開けた池田はどうするのか。
外を確認した池田はそっと扉を閉じる。
そしてふたたび鍵をかけるだろう。
密かに想いを寄せていた相馬の犯罪を
見逃したように。
なぜなら彼は傍観者だから。
End
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール Mr.M @Mr-M
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