<卒業> 4

池田の話はわかった。

しかし。

「お前の言っていることは矛盾している。

 焼死体が発見されて以降、

 俺は相馬が家で男から襲われているのを見た」

俺の言葉に池田は小さく頷いた。

「お、男を始末して・・

 ×、××××△△は堂々と・・

 そ、相馬さんの家に・・

 で、出入りすることができるようになった・・

 あ、あの市営住宅は空き部屋が多くて・・

 ×、××××△△にとっては・・

 こ、この上なく都合のいい場所だった・・

 そ、それでも万が一を警戒して・・

 そ、相馬さんを訪ねるときは・・

 お、男に似せた変装をしていた・・

 き、君が見たのは多分・・

 へ、変装した××××△△だよ・・

 ど、同居していた男は・・

 そ、相馬さんに暴力を振るってはいたけど・・

 せ、性的虐待はしてなかったんだよ・・」

あの時の男の姿が頭に浮かんだ。

あれも××××の変装だったのか。

××××は時と場所によって変装を変えていた。

茜の前では白髪のオールバックのカツラに口髭、

そしてサングラス。

葉山の前では一体どんな姿だったのか。


池田の話を信じるのであれば、

相馬は自らの手で男を殺したにもかかわらず、

平穏な日常はやってこなかった。

それどころか

××××によるより酷い地獄が待っていた。



「そ、相馬さんは・・。

 ×、××××△△の性癖に・・

 き、気付いていたんだと思う・・

 そ、そのうえで・・

 ×、××××△△と『契約』したんだよ・・」


「契約・・」

そんなわけはない。

あの夜見た相馬は本当に嫌がっていた。

相馬に覚悟があったのなら抵抗はしなかったはず。


そこで俺は

××××のもう一つの性癖を思い出した。

加虐性向。


相馬はそれも知ったうえで、

敢えて抵抗する演技をしていたのだとしたら。


「そ、相馬さんは初めから・・

 ×、××××△△も殺すつもりだったんだ・・

 ど、同居している男を殺した場合・・

 ま、真っ先に疑われるのは・・

 じ、自分だとわかっていた・・

 だ、だから死体を・・

 し、小学生では運べない場所まで・・

 い、移動させなきゃいけなかった・・

 そ、そして念には念を入れて燃やさせた・・

 そ、相馬さんにとって男の死体の処理が・・

 い、一番厄介な問題だったんだ・・」

池田は淡々と話し続けていた。

俺はただその言葉を黙って聞いていた。


「い、一方・・

 か、通っている学校の△△が・・

 し、失踪したところで・・

 い、一生徒である相馬さんと・・

 む、結び付ける人はいない・・

 そ、それがわかっていたからこそ・・

 そ、相馬さんは△△を殺すことにした・・

 こ、今度は誰の力も借りずに・・

 ひ、一人ですべてを処理したんだ・・

 か、彼女は・・

 △、△△の死体をバラバラにして・・

 う、海へ捨てた・・」


バラバラ死体。


死体をバラバラにすることには

いくつかのメリットがある。

顔や手が見つからなければ

身元の特定が困難になる。

そして持ち運びやすい

というのが最も大きな利点だ。


バラバラにしたパーツを

深夜の海に投げ捨てる相馬の姿が頭に浮かんで、

俺は背筋が凍った。

海に沈んだ××××の体は

魚の餌になったのだろうか。


死体がなければ事件にすらならない。


しかし。

死体をバラバラにする作業は

並大抵の精神力ではできない。

しかもそれを少女一人でやるとなれば。

それはすでに俺の想像の及ばない領域だ。


それに。


「小学生の女の子が

 死体をバラバラにすることを

 思い付くなんて・・」

俺の口から知らず知らずのうちに

言葉が漏れていた。


「そ、相馬さんはミステリ小説が好きだった・・

 き、きっと・・

 ほ、本からヒントを得たんじゃないかな・・」


俺は完全には納得してなかったが、小さく頷いた。


「そ、それが丁度卒業式の・・

 い、一週間前の出来事なんだ・・

 だ、だから・・

 に、二学期の終業式のタイミングで・・

 ×、××××△△が失踪したのは・・

 お、おかしいんだよ・・

 ぼ、僕は××××△△の失踪には・・

 そ、相馬さんではない・・

 べ、別の誰かが関わっていると考えた・・」

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