後編 解決編

 アイナ、亜衣、祐介の三人が警察の取調室に案内される。その室内にはカメラとマイク、それにスピーカーが用意してあり、三人の容疑者が不思議そうな顔をしている。

 緑色の落ち着いた格好をしたアイナに、くすんだ赤色のワンピースをまとった亜衣。それに白いジャケットを羽織る祐介。

『ふざけるなよ。人殺しと同じ部屋に入れるか!』

 怒りの声を上げたのは祐介。演技じゃないかと思うぐらい血相をかいている。

「少し冷静になってください」

 警察官が中に二人、外には三人いる。この状況では暴れても、すぐに捕まるのが落ちだ。

「さてさて。今回お呼びしたのは紛れもない殺人犯をあぶり出すためです」

 そう言うとみんなの顔がぴりりと引き締まった顔になる。

『おれは犯人じゃねーぞ!』

『わ、わたしもです』

『じゃあ、誰が犯人なのよ』

 スピーカー越しからも分かる慌てっぷり。これは犯人確定しちゃったかな。

「しかし、あなた方には彼女を殺す理由がある」

『は?』

「まずはアイナさん。あなたは上司である蛍さんに仕事がらみの恨みを募らせていた」

『それは! しかたないわよ。私の失敗でもあるし』

 強がっているのか、はたまた隠そうとしているのか。

「次に亜衣さん。あなたは恋心を抱いていた相手を寝取られた」

『し、知らないわよ! そんなの!』

 ごまかそうとしているが、目が泳いでいる。

「そして祐介さん、あなたは被害者に貢いでいた」

『だからなんだって言うんだよ!』

 怒りで地団駄を踏む祐介。

「さて。今回は、なぜ犯人が電話線を切ったのか、が問題になります」

 隣にいた松尾が「へ?」って顔をしている。

『なんだ。それは!』『電話が来て驚いたから、じゃない?』『知らないわよ。そんなの』

 口々に語り出す容疑者。

「電話が来た! それは初耳ですね」

『あ』

 亜衣さんが驚きの声を上げ、目を丸くする。

『い、いや。母親から電話があって、犯人は動転していたんじゃないかって』

「それを何故知っているのですか?」

『……』

 俺の質問に黙り込んでしまう亜衣。

「今のを聴きましたね。自白も同然です」

『証拠は? わたしを捕まえる証拠はどこにあるのかな?』

 打って変わって笑みを浮かべる亜衣。

 隠し通せると思っているのだ。

「そんなものすぐに見つかりますよ」

『わたしはたまたま偶然、電話が鳴ったと思った。それだけで逮捕されたら警察なんていらないじゃない?』

 すぐに怖い顔をする亜衣。

「ダイイングメッセージがあります」

『は?』

 俺はパソコンの画面にダイイングメッセージの写真を送る。

「このアイナのナの字は後から書き足したもの。これで証拠隠滅を図ったのでしょう。でも甘い。あなたの赤い服にも返り血が浴びているのです」

『じょ、冗談じゃない! そんな訳ないじゃない!』

「なら、なぜ、『衣服 血 落とす』を調べたのですか?」

『どういうこと?』

 言葉を失う亜衣。

「さらにあなたの家からナイフが見つかっています。これでDNA検査に引っかかればあなたは逮捕でしょう。指紋もありますし」

 がっくりとうなだれる亜衣。

『しかたなかった。わたし以外と付き合っているなんて、許せなかった! だから復讐してやったのよ! わかる? この気持ち。この気持ちをなくしたくてあの日、話し合いにいったの』

 でも――と続ける亜衣。

『彼は笑ってごまかそうとした、許せないじゃない。わたしがいるのに!』

 そう言って自供すると、今回の事件は終わりを迎えた。


「それで報償は?」

『……犯人確保に協力してもらった手前、報酬なしとはいかんか……』

 警察の中でも地位がありそうな大男が手を組み、肘を机につけてメガネを光らせる。

『わかった。今後、わたしたちの警察と協力するなら、多額の保証金をわたそう』

「……分かりました」

 警察との通知を切ると、松尾が不機嫌そうな顔で近寄ってくる。

「もう! なんでオーケーしちゃったの!」

「警察とは協力関係でいた方がいい。なにせ裏社会の俺らが捕まる可能性もあるのだから」

「それでも、だよ! 忙しくなるよ」

「ああ。そうだな」

 そう言って俺はネットを一時的に切る。

 今日はもう疲れた。

 明日もまたネット探偵をやろう。


 ネット探偵はまだ始まったばかりなのだから。

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