第7話 庶務への相談事2

つむぎ先輩」


 ある日の昼休憩。生徒会室の窓辺で心地よい日差しを浴びながら、ラノベを読んで過ごしていると、珍しい来客が現れた。


「何か用かな、歌風かふうさん?」


 彼女は歌風かふう友希那ゆきなさん。軽音部所属の一年生で、一応顔見知りの後輩である。軽音部ではヴォーカル担当で、古詠こよみさんと赤城あかぎさん含め五人でグループを組んでいる。


「紬先輩に話しがある」


 私の事を先輩と呼ぶ人物は、そう多くない。何故なら私の交友関係はとても少ないからだ。それに生徒会役員と言っても、あまり表立って活動してない私は認知度があまり高くない。……あ、言ってて何か寂しい気分に……。っと、それよりも。


「取り敢えず座りな?」


 歌風さんが椅子に座る。私は読んでいたラノベに栞を挟んで閉じると、机の上に置き歌風さんに話を訊く。


「それで話しって何かな?」

「紬先輩って、どんな相談も答えられるって、本当?」

「……デマです。そんなわけ無いじゃん」

「今の間は何?」

「ん~……相談に来た人の話を聞く。で、場合によっては、率直な感想を述べることはある。それだけかな」

「そうなんだ……」

「その感じだと話の本題は、相談事?」


 私の言葉に歌風さんは頷くと、詳細を話し始める。


「うん。実は……告白されたんですけど、返事に困っていて……どうしたらいいでしょう」

「ふむ。幾つか確認する。キミは相手の事どう思ってるの?」

「……正直、よく知らない相手はちょっと。それにライブで一目惚れって……」


 ん?殆ど答えは出ている様に感じるが、何かしら本人が引っ掛かる事があるんだろう。それにコレは……もう少し話してみるか。


「その告白って言うのは、直接言われたの?手紙じゃなかった?」

「あれ、何で分かったんですか?そうなんですよ。全て手紙です。いわゆるラブレターですよね」

「あ~、うん。その手紙って歌風さんだけ?他のメンバーも、貰ったりしてなかった?」

「さあ?私のは、下駄箱や机の中に入ってましたから。他のメンバーには、まだ話してないので、ちょっとわからないです」


 私は机に置いたラノベを手に取ると、ページを指でなぞりパタパタとさせる。

 ……ある意味ではラブレター。けどコレは多分、ファンレターだろう。歌風さんたちのグループは、定期的にライブを行っている。だからファンができ、そのファンがファンレターを渡したのだろう。

 さて……返事に困っているだから、返事をどうするかの回答を訊かれている訳だよな。


「ん、だいたい把握した。そこで1つ確認するけど、私からの相談事の回答聞きたい?それとも自分で答えを出す?」

「それはどういう事ですか?」

「えっとな、相談に来てその悩み事を言葉にすることで、自分で答えに気付く事がある。案外言葉にすると単純だったってね。だったら私からの回答は、必要無いでしょ?」

「そう言うことですか……」


 歌風さんは少し考える。そして決めたのか私の目を見て答えた。


「紬先輩の答えを聞かせてください」

「ん、分かった。じゃあ言うけど、メンバーとよく話し合って、どう対応するか決めるといいよ」

「メンバーとですか?」

「うん。おそらくその手紙はラブレターじゃなくて、ファンレターだと思う」

「ファンレター、ですか」

「そう、ファンレター。だから、メンバーと話し合ってファンレターの扱いを決めるといいと思う。これが私の率直な感想。回答かな」

「……分かりました。放課後にメンバーと話し合ってみます」

「ん、そうするといいよ」


 歌風さんは立ち上がるとお辞儀をする。


「紬先輩、ありがとうございました」

「大したこと出来てないし、私は自分の思ったこと言っただけだよ。だから気にしなくていいよ」

「それでも、相談を聞いてもらった訳ですし、お礼は言いますよ」

「じゃあそう言うことにしておこうか」

「はい。今日はありがとうございました」


 そう言ってようやく歌風さんは生徒会室から出ていった。

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