第3話 放課後、尾道天音と語る

「ねぇ、つーくん。二人きりだね」

「そーだな」


 生徒会長天音あまねの言う通り、現在生徒会室には私と天音の二人しか居ない。

 正確に言うと先ほどまで他のメンバーも居たが、会議が終わると各々の部活動を行うために部屋を出ていった。

 私は掃除をするために残ったが、天音は何で残ってるのだろう?天音は吹奏楽部の部長をやっているので忙しいはず……。


「相変わらず、素っ気ないねぇ」

「普通だよ。知ってるだろ」

「知ってるよ~。同じ小学校出身だし、昔馴染みだからね」


 天音の言う通り昔馴染みである。より詳しく言うと、同じ英会話の塾の生徒で小学校低学年の頃からの付き合いだった。そんなわけで、天音を呼び捨てで呼ぶことには、あまり抵抗はなかったりする。ちなみに、会計の美咲も同じ英会話塾に通っていたが、さん付けで呼んでいる。

 それはさておき、何で残っているのか、率直に訊ねるべきか?でも天音は成績優秀者で無駄なことしないだろうし……会話に付き合うか。


「何で残ってるの?」

「ん~……聞きたい事が合ってね」

「聞きたい事?」

「つーくん。生徒会になったこと、後悔してない?」


 天音の言葉に思わず掃除をする手が止まる。


「後悔、ね」

「そう。つーくん、そもそも人前って苦手でしょ?役員全員、同級生の顔見知りだから気兼ねないって言っても……つーくん、友達少ないし作るのも苦手でしょ?」


 どうやら天音なりに心配してくれていたらしい。けど、さんざんな言われようだ……まぁ我ながらその通りだとは思うけど。さて、なんと答えるか……そうだな。


「後悔、と言う点で言えば、まだ分からんな」

「まだ?」

「やりきった先に、後悔か充実かが待ってる気がするんだよ。正直な所で言えば、天音の言う通り、慣れないことしているよ。けどまぁ、陰から誰かを支える。そう言う事は嫌いではないよ。この掃除や整理だってそうさ」

「毎回するようになったのは、連絡無しですっぽかしたからでしょ?」

「お見通しかぁ~。ま、その事がなくても、やってた気がするよ」

「それは私も思った。つーくんって、陰から支える人だよねぇ。正直、助かってるよ。ありがとね」


 面と向かってお礼を言われると……なんか恥ずかしいな。


「さて、と」


 天音が席を立ちカバンを手に取る。


「じゃあ、聞きたい事は聞けた事だし、私も部活に行くね?」

「ん、部活頑張って」

「つーくんもそこそこで、切り上げなよ?あ、それとね」

「ん?」

「何かあればちゃんと話してね。私、会長だからね。生徒の声に耳を傾けるよ」

「……あぁ。そうだな。無理はしないよ」


 そう私が言うと、天音は満足したように頷くと部屋の出入りへ向かう。


「私も愚痴とか聞いて貰うことあるし」

「大概、聞き役してるだろ?」

「一方的じゃなくて、私もするからね」


 無言で頷く。天音はそれだけ言うと生徒会室をあとにした。

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