#27 予定と仲
降幡先生からの忠告を受け、生徒指導室を後にした俺は、ファミレスへ向かい三人と合流した。既に山盛りのポテトと各々ドリンクを注文しており軽い雑談を始めていた。
「すまん遅くなった」
「おう。やっと来たか」
席に着きドリンクを注文する。
同時に美恋がポテトの追加注文をした。
「何の話してたんだ?」
「主に夏休みだな」
「うん、夏休み何しよっかな~って」
「そうだったのか。なら丁度よかった」
三人はどういうことだと言った風な顔をする。
「夏休みさ、4人でどこかに行かないか?」
「俺は別にいいけど……。どうしたんだ急に?」
「実は……」
昨日の夜、美恋と話した内容を二人にも話す。
「最上さん、海に行ったことないのか⁉」
「うん。ちょっと事情があって……。水着とか着たことないんだ」
「……」
天司は美恋の事について理解している。水着を着れない理由も察しがついているだろう。
けれど、美恋が消えたあの日、天司は一度美恋を拒絶していた。本人は謝りたいと言っていたが、実際にはまだ謝れていない様だ。
ここ数日、天司が美恋と話すのは俺がいる時だけだった。天司の話し方もわざとらしさを感じるものだった。
「礼次、ちょっとドリンク取りに行こうぜ」
「ん? 俺まだあるぞ?」
「いいから!」
二人でドリンクバーの前に立つ。礼次に俺が来るまでの間の事を確認した。
「最上と天司の様子?」
「ああ。どこかおかしくなかったか?」
「特に変わったところはなかったと思うけど……。いや、ちょっと待て、話を振ってたのはいつも最上だったような気がするな」
「どんな話をしてた?」
「テストがどうとかそんなのばかりだぞ。デモ話なんてそんなもんだろう」
礼次はドリンクを飲み干し入れ直すとテーブルへと戻っていく。
天司の方から話題を提供しないと言うのは明らかに普通じゃなかった。どちらかというとおしゃべりな天司はいつも自分から話し始める。だからこれは、少なからず美恋の事を意識しているといことだろう。
「天司は夏休みどうだ?」
それとなく聞いてみる。避けているなら断るだろうし、先日のように謝りたい仲良くしたいという気持ちがあればおそらくは……。
「私は……大丈夫だよ」
どうやら後者の様だった。
「皆、大丈夫ってわけだな。美恋はどこに行きたい?」
「う~ん、そう言われると難しいね。海は行きたいけど、入れないから……」
「最上さんが海ダメってんなら、山なんてどうだ!」
「山か……」
俺は大丈夫だが、美恋と天司は虫とか大丈夫だろうか?
例の黒いやつの一件以来、何故か大体の虫が平気になった。
「二人は、虫大丈夫か?」
「えっ……」
「えっ……」
美恋と天司の声が被った。
「ほら、山だからもしかしたらな?」
「いや、ぜってぇいるから」
「あの、公正くん……山は止めとこうよ」
「うんうん! 私もそう思うよ!」
隣同士で座る二人はお互いに顔を見合わせ頷く。多少すれ違ってはいても根っこでは仲の良さが出るんだなって思った。
「山も海もダメとなるとどうしようかな」
「別に海山に絞らなくてもいいんじゃないかな? どこか遠出するだけでもいいんじゃない?」
「そうか……」
「温泉とかどうかな!」
天司の提案にそれだ!と思ったのも束の間、美恋の体質の事を思い出す。
「天司それはちょっと」
「あ! そうだった……」
「なんだ? 温泉良いじゃねぇか! 行こうぜ!」
「いやえっと、美恋が都合悪くて」
「最上さんが? 何で?」
耳と尻尾が出てくるからなんて説明できない!
「実は、こう見えて意外とふくよかな体つきで……」
「ひどいよ公正! 私まだ太ってないよ!」
「おい公正、裸を見た事があるのかという事は置いといて、今のひでぇぞ」
「それは最低だよ公正くん。しかもみんなの前で言っちゃうなんて」
誤魔化そうと出まかせを言ったが、内容が良くなかった。あらゆる方面から罵詈雑言が飛んで来た。
「……俺が悪かった。けど、美恋はいいのか?」
「何言ってるの公正、温泉は最高だよ!」
「いいのか。二人は、訊くまでもないな」
どうやら、夏休みは皆で温泉旅行に決まったらしい。
「さて、じゃあいつ行くかだが、天司はバイトの予定どうするつもりだ?」
「七月はダメかな。バイト結構入れてるし。八月頭とかなら行けるかな」
「分かった。礼次は?」
「俺も大丈夫だ。八月の頭でいいぞ」
「美恋は実家に帰ったりしないのか?」
「帰らないよ。帰っても誰もいないしね」
「そうか……」
美恋の帰っても誰もいないという言葉に少し寂しい気持ちなったが、これで全員が問題なく参加できることが分かった。
「俺も八月頭なら、天司と一緒に休み貰えばいいから問題ないな」
「ねえ、公正くん。一応確認なんだけど日帰りじゃないよね?」
「え? 日帰りのつもりだけど」
俺の発言に周りの視線が覚めたものになる。
「公正くん……。温泉旅行に日帰りとか超あり得ないからぁ!」
「流石にどうかと思うぞ公正」
「公正は温泉を分かってないんだよ!」
言いたい放題だった。
「だって考えても見ろよ! 男女で泊りはマズいだろ!」
「最上さんと一緒に暮らしてるやつが何言ってんだ!」
「美恋ちゃんと一緒に居れるのに私は嫌なの⁉」
「今更だよ公正~」
「ちょいちょい。男は男、女は女で別々の部屋だろ?」
「公正くん。一緒の部屋の方が値段が安いのぉ」
「だな」
天司の言い分はもっともだった。出来る事なら費用は押さえたい。
「別に一緒な部屋で寝ても困らないでしょう? あれ~、それとも~、公正くんは何エッチな事でも考えてますかぁ~」
「違う! そんなこと考えてない!」
「考えるだろう! 女子と同じ部屋で寝るとかそれだけでもう!」
「キモッ! 美恋ちゃん、やっぱり部屋別にしよ?」
「そうだね」
礼次の気持ち悪い発言のおかげで、どうやら部屋は別々で取るようにしたらしい。美恋と天司はお互い抱き合う様に礼次から離れていた。
やっぱりこうして見ていると仲の良さが分かる。早く仲直りして欲しいと強く思った。
らいあー²! 〜Truth of wolf = Lie of girl~ 大文字多軌 @TakiDaimonji3533
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