#24 恋と悩み

 携帯のトークアプリには礼次から連絡が来ていた。モトキさんの店にいるとの事だった。あの爆盛りチャーハンの店だ。

 天司にフラれた俺は、重い足取りで店へと向かう。天司の言葉の意味をずっと考えていた。


 天司の事を一番好きって、俺自身が思ったら……。

 

 俺は、天司の事が好きだ。きっとそれは告白されたから意識したとかそんなものじゃない。入学してからほぼ毎日一緒に居た。俺はそんな彼女に間違いなく好意を持っていたはずなんだ。けれど、天司は俺が一番に思っているのは私ではないと、そんな風に言う。正直フラれたショックより困惑の方が大きかった。


「やっと来たか公正! 休み時間も残りすくねぇから適当に頼んどいたぞ!」

「あぁ、サンキュ」

「きみふぁだ!」

「食べながら話すなって何度も……へ?」


 あいつ何食ってんだ? 俺の見間違いか?


「おい、お前それ……」

「美味しいね!」

「やべぇな最上さん! もう完食目前だぞ!」

「まさか、こんな嬢ちゃんに完食されるなんて」


 一席だけ明らかに異常な量の料理が乗っていたであろうデカ皿がある。


「最上さん! あと一口だぞ!」

「余裕だよ! 美味しいからね!」

「うおぉぉぉぉぉぉ! ついに!」

「ご馳走様でしたぁ!」

「完食~!」

「いえぇぇぇぇぇぇい!」

「いえぇぇぇぇぇぇい!」


 パチン。ハイタッチの音が店内に大きく響く。そしてこの一席だけ、他と比べて異常なほどテンションが高かった。他のお客さんに申し訳がないくらいに。


「何やってんだこれ?」

「何って、見てわかるだろ! 最上さんが完食したんだよ! あのモンスターを!」

「嬢ちゃん、やってくれたぜ! 持って行きな!」


 モトキさんが美恋に何かを手渡す。


「まさかそれって」

「そうだ公正! 完食認定カードだ。こいつがあれば、一年間4人まで1日一人一品タダになる! つまり、俺達は1年間昼飯に困らねぇ!」

「マジでか! よくやった美恋!」


 俺は美恋に近付き頭を撫でた。


「えへへ~。ありがとう公正~」

「ったく。来て早々イチャつくなよ!」

「違うだろ。俺は純粋に褒めてるだけだ」

「純粋にねぇ……。ところで、天司との話は無事に終わったのか?」


 うわぁ~。思い出した。周りの空気がおかしくて忘れてたのに、礼次の奴一瞬で現実に引き戻してきやがった。


「終わったよ……」

「なんだそのフラれて来ましたみたいトーンは」

「……」

「マジか」

「ええ! 公正、空羽ちゃんに告白したの⁉」


 別に隠すつもりはなかったけど、こうもバレるかな。


「フラれたよ」

「でも空羽ちゃんは公正の事好きだよね? どうして?」

「いやなんか、私が一番じゃないとか、どうとか……」


 俺の言葉に美恋は良く分からないといった表情を浮かべる反面、礼次の方は何かを察した表情を浮かべた。


「最上さん、ちょっとだけ公正と話がしたいから先に教室に戻っててもらってもいいかな?」

「え? 私、邪魔かな?」

「いや、そういうわけじゃないけど。エッチな話聞きたい?」

「あ~、なるほど……。公正も男の子だもんね。それじゃあ私戻るね」

「お会計は俺達が払っておくから気にしなくていいよ! 今日は最上さんが勝利を掴み取ってくれたからな!」

「ホント⁉ ありがとう礼次君!」


 美恋は会計を俺たちに任せて店を後にした。にしても、この短い期間に良く二人は仲良くなったな。

 礼次君呼びか……。


「なあ公正。天司は私が一番じゃないって言ったのか?」

「そんな風な事を言ってたと思う」

「お前、ピンと来てないみたいだから言うけどさ、それってどう考えて最上さんの事意識してるだろ」

「天司がか?」

「ああ。お前が天司に告白したんなら、きっと天司が好きなんだろうよ。けどな、一番じゃないって言われたってことはだ。天司はお前の一番は最上さんだと思ってるんじゃないか?」

「美恋が? どうして?」

「そんなもん俺が知るかよ。お前らの仲の良さは俺たち部外者から見ても相当いいぞ。だからだと思うけど、最近やっかみの声も減ってるだろ」


 礼次の言う通り、嫉妬の声や呪詛のようなものを受ける機会は減っていた。


「お似合いって言うか、そこに居て当たり前っていうか、そんな感じがするんだよ。」

「それがどうしたっていうんだ」

「天司がお前の事を好きなら、周りの他の奴らより気にするだろう! 考えてみろよ、仮に付き合ったとして、彼氏の近くには別に仲の良い女が常いるんだぜ。そんなの耐えられないし、比べるだろう」

「それは、そうだな」

「それに、俺は……。お前は最上さんが好きだと思ってた……」


 予想をしていなかった言葉に開いた口が塞がらなかった。


「なんだその顔」

「俺が、美恋を?」

「だからそうだって言ってるだろう。そして、そう感じてるのは俺だけじゃない。天司も例外じゃないってことだ」


 礼次にそう見えていて、天司にそう見えていないなんて道理はない。寧ろ、同じ様に見えていた可能性の方が高い。何せ俺は昨日、美恋を理由に天司をフッていた。


「どうすればいいんだ」

「俺にわかるかよ。こちとら3日と恋人関係がもったことねぇーんだぞ」


 その後も休み時間ギリギリまで議論は続き、様々案が出た。

 美恋との同居を辞める。美恋と距離を取る。天司と付き合う事を諦める等々。

 どれも難しいことだった。一度始まった同居を簡単に辞められるほど無責任な事はしたくない。美恋との距離を取る事で彼女を傷つけたくない。天司を諦める、それは本末転倒だった。


 結局答えが出るわけもなく、予鈴3分前に店を後にしダッシュで学園まで戻った。

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