#12 残念イケメンと人生相談……
美少女二人挟まれて、両腕を使えない俺は、昼飯を食べることが出来ないでいた。天司は震え、美恋は俺の腕しがみつきながら、自分のパスタそっちのけで、あろうことか礼次の頼んだ山盛りのチャーハンを見ていた。
ほんと、食い意地の張ったやつだ……。
いただきますという掛け声と同時にものすごい勢い礼次はチャーハンをかきこみ始めた。
「ふあぁぁぁ……。公正、私もあれ食べたいよぉ」
「止めときなさい、絶対ムリだから……」
大の男、それも比較的大食漢の礼次でさえ、完食したことがないんだ。それを美恋が食べ切れるとは到底思えない。
「天司、パスタ……冷めるぞ?」
「あ……うん。食べる……」
「美恋もチャーハン見てないで早く食べなさい」
「はーい」
数分が経ち、俺たちは昼食を済ませた。ただ、一人を除いて……。
「もう……無理……」
恐ろしい量のチャーハンの山はなくなり、僅かあと数口といったところで礼次はリタイアした。
「よっしゃあ! お前の負けだ土曜日は頼んだぞ!」
「あ、おう……」
そう言うと厳つい店員は厨房へ戻っていった。
「また、負けたな」
「今日はいけると思ったんだけどな」
「あの量じゃ無理だろ……」
「私なら食べれるよ!」
「はいはい、そういうことにしといてやる」
「むぅ、ほんとだもん!」
「じゃあ今度試してみるといい」
ちなみに俺も試したが、半分も行かずリタイアした。
「あ、そうだ天司。ここってどんな噂があるんだ? 隠れた名店的な? それともやっぱりあのチャーハンか?」
「違うわよ。あの店員でしょ! あんな怖い人が店にいて学生が気軽に入れるわけないじゃない!」
「あぁ、モトキさんのことか」
あの店員はモトキというらしい。それが姓か名なのかは、俺も礼次も知らない。ただ、モトキさんと呼んでいる。
「にしても公正! お前がマジで羨ましいよ……」
「はあ? 何だ藪から棒に?」
「最上さんみたいな可愛い親戚がいて、その上我らが天使、天司空羽まで
「侍らすってお前な……」
「まったくもって、うらやまけしからん!」
「何言ってんだ。俺こそお前が羨ましいよ。長身で筋肉質でイケメンじゃないか。それにスポーツに勉学、何をやっても優秀じゃないか。彼女の一人や二人簡単に作れるだろう?」
「そりゃ、彼女の一人や二人できたこともある……。けどななんでか3日と保たないんだ」
「…………」
俺はこいつが羨ましい。けれど別にこいつのようになりたいわけじゃない。その訳は……。
「それにしても、さっきは二人に抱きつかれてどんな心地だった? 天司はおっぱいが大きいからさぞ気持ちよかっただろう! 柔らかかったか? それに最上さんはどうなんだ? 詳しく教えてくれ!」
こんな感じで人目も
天は礼次に二物を与えたが、同時に欠陥も与えたわけだ。
「なあ、その辺にしとけって……。美恋はまだしも、天司が完全に引いてるぞ」
「キモいよ……」
「キモくて結構! 俺は自分に正直なだけだ。天司だって、いくらモトキさんが怖いからって公正に抱きつきすぎだろ? お前は自分の長所を余すことなく、公正を誘惑するために使ってたじゃないか」
「何言ってんのよ! 別に誘惑なんてしてないわよ!」
「いやいや、お前明らかに公正に対してだけ、周りと態度違うじゃんか?」
「う、うるさい! それ以上、変なこと言わないでっ!」
「え? もしかして、空羽ちゃんも公正のこと好きなの?」
美恋の一言に、顔を真っ赤にする天司。俺はそんな二人に挟まれて、どう反応すればいいかわからないでいた。
俺は内心ドキドキしていた。
天司が俺のことを好き? いやいやそんなわけ……。
「なあ、天司……」
「うるさいわね!」
「まだ何も言ってないんだが!?」
「別に…公正くんなんて、ちょっと仲のいいバイト友達ってだけなんだから」
腕を組み、さも当然のように友達だという。俺はそれが嬉しくて、そうだなと同意した。
「…………」
何故か睨まれた……。
「わたし、先に行くから。じゃあまた後でね」
そう言うと天司はお金を置いて店を出た。また後で、というのはきっとバイトの事だろう。
「それで公正。結局のところ、最上さんはお前のなんだ? 親戚って言ってたけど、全然そんな感じじゃないだろう」
「うっ……」
俺のついた嘘を看破されて言葉に詰まる。すると突然美恋が話を始めた。
「えっとね。私と公正は結婚するの」
「え? マジで? 許嫁ってことか?」
「ううん。違うけど結婚するの!」
「そうか……。もうすでにそんな仲に……」
「サラッととんでもない嘘をつくな! それと、なんでそんな簡単に信じるんだよ!」
美恋は突然、結婚なんてワードを持ち出してきた。
「最上さん……。公正は上手かったか?」
「上手かった? ……はっ! 凄く美味しかったよ! それにね、なでなでしたりモフモフしたりしてね、とっても気持ちよかったの!」
「公正……お前ぇぇ……」
「違うから! 飯を作っただけだ!」
悔しそうに唇を噛み締める礼次に行為に及んでないと力強く説明した。
「だったらなてなでモフモフってなんだ!」
「そ、それは……マッサージだ!」
美恋に耳と尻尾があるなんて説明できねぇ〜……。
「マッサージ……だと……。貴様ーーーッ!」
耳と尻尾の存在を隠すつもりが墓穴を掘ってしまった。
「待ってくれ! 俺の話を聞け!」
一度、荒ぶる礼次を落ち着かせた。
「正直に話すと俺もよく分かってないんだ……。突然こいつが家に上がり込んできて、帰る場所がないから一緒に暮らしてくれって言い出したんだ」
「それは本当なのか?」
「うん……。家には帰れないかな……。元々一人暮らしだったんだけど、上手くいかなくて公正の家にお邪魔してるの……。お母さんにも話してない……」
「どうして?」
「連れ戻されちゃうから……」
「美恋の前の学校、玉篠宮らしい……」
「は? 玉篠宮って、あの?」
玉篠宮女子学院のことをこの辺りで知らない人はいないだろう。
「最上さん、お嬢様だったのか……」
「えへへ」
「そのお嬢様も自分一人じゃ生活もままならないってわけだ」
「ごめんね公正」
「もういいよ。謝らなくて」
「なんか大変だなお前……」
嫉妬から一転、憐れみを頂きました。
「まあ、何か困ったことがあったら言ってくれ。出来ることはしてやるよ」
「ありがとな礼次」
俺はいい友達を持ったものだと思っていると、美恋が礼次に質問していた。
「私も困ったことがあったら相談していいの?」
「ああ、もちろんだ!」
「それじゃあ……」
美恋は一息おいてから……。
「公正と空羽ちゃんと、三人で仲良く過ごすにはどうしたらいいかな?」
「十分仲良さそうに見えるが?」
「でも、公正と空羽ちゃん……喧嘩してる?」
「大丈夫だろ。あれは天司のヤキモチだから」
「てことは、やっぱり空羽ちゃん……公正のこと」
「好きなのかも知れねぇな」
「そっか……。私、邪魔だったのかな……?」
本人のいないところ、天司空羽が雛菊公正のことを好いているという話が進んでいく。少なくとも当事者が一人ここにいるわけなのだが、二人は全く気にしていなかった。
……どんな顔して天司に会えばいいんだ。
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