#9 おおかみ少女は一緒に寝たい……
放心状態から立ち直った俺は、柏坂さんと店長に励まされなんとか帰路についていた。もちろん先行きは不安しかなかった。そんな俺の横では、美恋が終始嬉しそうに歩いている。
リズミカルに弾む足取りはふわふわとワンピースを揺らし、チャームポイントとも言える、綺麗な白銀の髪をたなびかせていた。
「なあ、美恋? おまえ、荷物とかはどうするんだ?」
「帰ったら運ぶよ」
「そうだよな……そうなるよな」
そんな風に今後の話をしているとあっという間にアパートに到着する。
「俺は先に部屋にいるから、必要なものは早めに持って来いよ」
「うん。……公正?」
「なんだ?」
「手伝ってくれないの?」
「荷物多いのか?」
「ううん。物は少ないの。けど、片付け手伝って欲しいかな」
美恋の要望に答えたかったが、バイトと天司とのやり取りで疲れていた俺は、あまり気乗りしなかった。それでも、美恋の甘えた表情を見てると助けたいって気持ちになってしまう。まさに、魔性の女だ。
「わかった。手伝うよ」
俺がそう美恋に伝えると喜んで抱き着いてくる。
「だから、ひっつくな!」
「んふふ。ありがとう公正。じゃあ、お家へどうぞ!」
そう言い美恋は鍵を開けた。美恋の部屋へと俺を案内したのだ。
よくよく考えると、初めて女子の部屋に入ったんだよな?
けれど、その部屋は殺風景で飾り気も無い部屋だった。本当にここで美恋が生活していたのかも怪しいほどに。しかし、僅かばかり甘い香りが漂う。美恋の匂いだ。それは部屋を満たしていた。俺は、そこでちゃんと、美恋がこの部屋で暮らしていたのだと思うことが出来た。
「何もない部屋だな。テーブルに寝具、
「私、あんまり買い物したりしないから……外出るのも大変だし」
「なるほどな……」
美恋は帽子を被っていないと尻尾が出てしまう。だから、もしもの時のリスクを考えると、むやみに外出できないのだろう。なんて思っていると、美恋は被っていた麦わら帽子を外した。
瞬間。頭からは真っ直ぐ立った耳と腰からは大きな尻尾が現れる。どちらも髪の毛同様に綺麗な白銀だ。すると、当たり前だがまたしてもワンピースがめくれ上がる。白いレースのパンツが丸見えになっていた。
「おい。美恋、パンツ見えてる!」
「ん?」
俺は慌てて視線を逸らした。昼にも見たものと同じで、一度見て目に焼き付いていたが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
「あぅぁっ! ごめんね! 直ぐ着替えるから待ってて」
「ああ、わかった」
俺は目を閉じ、着替えを見ないようにした。ゴソゴソと衣擦れのような音が聞こえてくる。今更だが、裸も見て下着も見てしまってるわけで、こんなに緊張しなくてもいいのかもしれないが、音だけで他に情報がないというのは想像力が働いて余計にエロい思考が働いてしまう。そもそも、美少女の生着替えを目の前でやられて何も感じない方が異常だ。
「終わったよ~」
美恋から着替えの終了報告を受け、再び目を開ける。
「おまえ、その服……昨日貸したやつじゃないか……」
「うん。これ楽だからね」
美恋の服装は昨日同様、白いシャツに短パンだった。大きな尻尾は短パンの少し上からシャツをめくり上げて出ている。
「で、何から運び出せばいいんだ?」
「お布団かな?」
「布団……」
これは本気で家に居座るつもりだ。しかし、物を買わないのにどうしてお金が無くなるんだ?
「なあ、別に今すぐにじゃなくてもいいんじゃないか? ほら、まだ立ち退きまでは余裕あるだろ?」
「そうだけど、早めに生活の準備を整えたいからね」
何でこんなに前向きなんだ!
「そうだ! そういう紙は来てないのか? 退去勧告的な?」
「ないよ」
「ないなら別にこのままでいいじゃないか」
退去する必要が実はない。であれば、わざわざ美恋の良く分からない提案、お願いを受け入れる必要なんてない。
「お金はまだあるの。けど、今後不安だから……」
「不安?」
「うん……。残金、少ない……だから解約した」
なるほど、そういうことか。つまり、これからの生活に回すほどの蓄えがないという事だ。
「で、いつ解約するんだ?」
「……今週末」
「それはまた急な……」
俺がいなかったらどうするつもりだったんだこの子は⁉
そんな話をする美恋の耳と尻尾は垂れ下がり、申し訳なさが滲み出ている。
「とりあえず、布団運ぶから手伝え」
俺がそういうと、美恋は顔を上げ目を輝かせた。
それからは、寝具、テーブルと移動させる。そして、雑貨なものを運び終わり最後に残ったのは、箪笥だけだった。
「流石にこれはもう入らないぞ」
俺の部屋には、箪笥が入れるスペースが存在しなかった。もし、この箪笥を入れようものなら寝場所を失う。そこで俺は美恋にある提案をした。
「美恋、とりあえず箪笥は後日にしよう」
「でも、着替えこの中にあるよ?」
「今週末まで大丈夫なんだろう? ならしばらくこのままでもいいだろう」
「うん。そうだね。じゃあ、しばらくはこっちで着替えるね」
「そうしてもらえると助かる」
そして俺達は美恋の部屋を後にした。
バイトの後に、ハードな引っ越し作業?を終えた俺の身体は昨日同様に汗でベタベタだ。
「美恋、悪いけど先にシャワー浴びていいかな?」
「もちろんだよ!」
俺は美恋に断ってから洗面所へ向かった。服を脱ぎ風呂場へと進む。
よくよく考えたら、何で俺は美恋に風呂行くなんて言ったんだ。美恋は自分の部屋でシャワーすればいいじゃないか。
この時、すでに時刻は11時手前であったが洗濯物をしなくては、なんて思い返すと、まだあの洗濯物の山には美恋の下着が混ざっている事を思い出した。
「どうするんだ……あれ……」
俺はシャワーを終え、洗面所で着替えを済ませる。普段なら、部屋まで裸だが、今はそんなことできない。
「美恋、風呂なんだが自分の部屋で入れば良くなかったか?」
「はっ! 確かにそうかも!」
「だよな」
「でも、せっかく待ってたし公正のお家で入る~」
そういうと美恋は軽い足取りで部屋を出た。それから数分……。
「公正~~!」
洗面所の扉の向こうから声が聞こえる。
「なんだ?」
「服ないよぉ~。私の部屋から取ってきてぇ~」
「あ、ああ。わかった!」
「公正~、パンツとブラもだよぉ!」
「何ぃ⁉」
「早く~、裸のままは嫌だよ~」
「んああもう! わかったよ!」
俺はテーブルから美恋の家の鍵を取り部屋へと向かう。
部屋に入った俺は箪笥を開けた。一番上の棚には下着類が入っていた。何種類ものパンツとブラが俺の視界に入ったわけだ。
「こんなものまで……」
俺が見たそれは、黒い半透明のような紐のパンツだった。俺は比較的、普通な下着を選んだ。あとは寝巻きだ。それは、二段目にあった。軽い素材でできた薄いピンクのひらひらしたパジャマだ。
「よしこれでいい!」
俺は、美恋の部屋を後にして、自室へと戻る。これまた昨日同様に、扉の隙間から美恋に服を渡したのだ。
「んふ~。ありがとう公正!」
「ん、ああ……」
見てはいけないものを見てしまったような背徳感が俺を襲っていた。
着替えを終えて美恋が戻って来る。そのパジャマ姿の美恋に俺は目を奪われる。
上気して仄かに紅く染まった白い肌。長い綺麗な髪。大きくふわふわした尻尾。全体的に色素の薄い見た目をした美恋には、柔らかなピンクのパジャマが良く似合っていた。
そんな風に見惚れてしまっていたが、明日も学校があり、今度こそ遅刻で畿内と思い出す。俺は早々に寝る事を決めた。流石に洗濯もそろそろしなくてはいけない。だからこそ、明日は早起きするのだと。
「美恋、俺はもう寝るから、おまえも寝るなら電気消してくれないか」
「わかったよ」
美恋は電気を消す。部屋は暗くなり、俺は自分で用意した布団へと潜り込んだ。
すると数秒もしないうちに何かが俺に張り付いた。俺は反射的に飛び退いてしまった。
「な、なにしてるんだおまえは!」
美恋が同じ布団に潜り込んで来たのだ。
「私も寝ようかなと思って」
「どうして俺の布団に入って来る! 自分のがあるだろう!」
「だって、一緒がいいもん!」
「いやいやいや、それはダメだろぉ」
「なんで……。公正、私のこと嫌いなの……?」
「そういう意味じゃない。男と女が同じ布団で寝るのは良くないだろ」
「私はいいと思うよ」
「……とにかく、よくないんだ! こればかりは許さない」
「……わかった……」
美恋は自分の持ってきた布団へと戻っていく。わかったという返事からは、悲しみというか残念という気持ちが滲み出ていたが仕方がない。
ただでさえ、急に一緒に生活することになり精一杯なのに、あんな可愛い子と同じ布団で寝るとか想像しただけもう……。それに美恋からはすごく良い匂いがする。理性を保つためには少なからず遠ざける必要があるのだ。
俺は、そんな煩悩を
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