#2 それは耳と尻尾の生えた……②
俺、
一人暮らしをするにあたって、当然ながら生活費を稼がなくてはならない。ある程度の仕送りはあるものの、親にばかり頼ってはいられない。食費や光熱費は全て自分で稼ぐと決めていた。
高校に入学してすぐアルバイトを始め、早3ヶ月。仕事にも慣れ、学業との両立、余裕も生まれていた。
「あっつ……。夜でもこの暑さか……」
7月頭の気温は例年の平均より高い33℃。うだるような暑さだ。梅雨が明けたばかりで、湿度も高く最悪だ。
「ソーダ、ソーダっと」
バイト終わりの帰り道、家の近くにある自販機で飲み物を買おうと小銭を入れボタンを押す。自販機から落ちた飲み物を取ろうと視線を下におろしたとき……。そいつはいた。
「おわっ!」
自販機の横で、もたれ掛かる様にフードを被った何かがいた。なにか見てはいけないものを見てしまったと、踵を返そうとしたとき、微かに声が聞こえた。
「みずぅぅ……。みぃずぅ……。みぃ……」
突然の声に驚く……ことはなかった。その声は弱々しく、かわいい声をしていた。女性だったのだ。
「……。あの? これ飲みますか? 炭酸水ですけど」
俺がそう聞くと、フードの女性?はゆっくりと俺の方へと手をのばす。手は少し震えており、落としては危ないとしっかり手を添えた。
その手は細く、男の俺とは違い柔らかかった。
飲み物を受け取った手はゆっくり、目深く被ったフードへと消えていく。
ゴクッ! ゴクゴクッ! ゴクッゴクッ!
物凄い勢いで飲み物を流し込んでいる。炭酸水なんだけど大丈夫だろうか? と考えていると案の定……。
「んっ! げほっ! ごほごほっ! んふっうぇん……」
ていうか、何だ最後の!? エロ可愛い!
俺も健全な……至って健全普通な男子高校生だ。喘ぎ声と聴き取られてもおかしくない声に、思わず反応しそうになるが、急いで辺りを見回した。痴漢とカン違いされるのは御免だからだ!
「んんっ……。ふぇぇあっっ……。んん……はあぁ……」
どうやら落ち着いたようだ。
だがエロい!!
「……えっと、大丈夫ですか?」
呼吸を整え、落ち着いた様子の彼女に声を掛けた。
「ありがとうございます……。もう大丈夫です……。」
そう言うと、先程までの飲んでいたソーダの入ったペットボトルを差し出してきた。……空なんだが……。
もう大丈夫。と彼女の口から聞いた以上、変に関わる必要もないだろうと、再び自販機で飲み物を購入し、その場を後にする。
「それじゃあ、えっと、気を付けて帰ってくださいね……」
自宅は目と鼻の先だった。ずっと蒸し暑い外には居たくなかったのもあり、足早に彼女の横を抜けた。
自宅のアパートは、二階建てで少々古い。だがその分家賃は低く、学生には丁度いい感じもしていた。そんなアパートの二階、一番奥が俺の部屋だ。
暑い……と、シャツをパタつかせながら階段を上っていると、どうにも後ろから気配を感じる。きっと同じアパートの住人だろうと、一々相手の顔を確認するのも失礼だと思い、気にせず自宅のドアを開けた。
汗でベトベトの服を脱ぐために洗面所へと向かう。シャツを脱ぎ、手を洗おうと洗面台の前に立ったその時……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鏡に、先程倒れていたフードの女性?が、俺の後ろに立っている姿が映った。
驚きのあまり、振り返ろうとすると同時に、バランスを崩してしまう。俺はフードの女性?を巻き込みながら転倒した。
背中に倒れたときの痛みを感じつつもゆっくりと目を開ける。眼の前にはフードを被った女性がいた。確実に女性だった。
フードの隙間から溢れる白銀の髪、大きく愛嬌のある瞳、長いまつ毛、その女性らしい顔立ちはアイドルにも負けないほど可愛かった。そして何より、上半身に柔らかい感触があったからだ。
「あの……ごめんね。シャワー借りてもいいかな?」
お互いの唇と唇が触れそうな距離で、彼女はそんな事を言った。俺の頭はパニックになっており、条件反射のように……。
「ど、どうぞ……」
なんて言っていた。
それから、軽い重みは消えさり、彼女は俺から離れた。まだ何がなんだかわからない俺は呆然としていたが、今度はそうはいかない状況になる。
目の前でおもむろに服を脱ぎ始めたのだ!
「ちょっと待って!! 何で脱ぐの!?」
「? 脱がないと……シャワー浴びれないじゃない?」
「いや、確かにそうだけどっ!」
「ん……問題ない」
そう言うと彼女は、服を首のあたりまで捲りあげた。
眼の前には、女性らしい大きな果実が露わになる。当然ながら下着は着けているがそれはそれだ!
「問題大アリだろーっ!」
俺は急いで洗面所から出て、扉を閉めた。さっきまではなかった疲れがどっと押し寄せてきた。そのままドアにもたれ掛かる様に一息ついた……。
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