第2話 師弟と姉妹の絆が編み出すもの
両者がゼロ距離で攻撃を仕掛ける。
決して派手さはない。
だが、高等魔術の一つ――呪術を解除する呪解魔術を構築している女――優美は気付く。お互いに魔術による身体能力強化を幾重にも張り巡らせており、拳銃で身体を撃ち抜くより当たればそれだけで致命傷を与える事が出来る攻撃を放っている事に。派手な魔術戦ではなく地味な魔術戦。だけど見るものからしてみれば、純粋な殺し合いにままならない。
「へぇ、貴方も軍隊式格闘術を扱えるのね?」
「真美に嫌って程教わってるからな」
「ならペースを上げるわ。ついてきなさい」
彼女の攻撃速度が上がる。
全身に薄く張り巡らせている魔術結界がガラスが割れるような音を鳴らし三層破壊される。
「――ッ!?」
「全部で十四層ってところかしら?」
全てを見透かしたような黒い瞳は敵対する男だけをしっかりと見ている。
禁術の一つとして世界で認定された道術を駆使しても練度が高い魔術一つで簡単に相殺してくる真美に憑依した悪の権化。
人々の負の感情が表に視認できるようになっただけでなく、それが集合体として力を得た。
よりにもよって一番憑依して欲しくない器に。
状況は最悪。
某国の正規軍は既にたった一人に苦戦し半壊状態。
住民の避難も終わっていない。
これ以上国の中心部に向かわせるわけにはいかない。
事実――最終防衛ライン。
三キロ先には国立医療センターや介護施設があり、避難にはまだ時間がかかるだろう。
頭がそれを理解しているからこそ、ここで退くわけにはいかない。
「後二枚ね」
「るせぇ! なにがあってもお前はここで止める!」
拳を交える度に気合い程度では絶対に覆らない実力差を感じてしまう。
身体が恐怖を感じ、動きが徐々に鈍くなる。
それでも全身に力を入れて、戦う。
障壁でダメージを緩和しているにもかかわらず、全身の節々に痛みを覚える。
骨が砕けた?
と、勘違いしてしまう衝撃が身体を襲う。
障壁が破られ減少した事で彼女の一撃が放つ衝撃を吸収しきれない。
状況は刻々と悪くなる。
手汗だけじゃない。
全身が冷や汗でびしょびしょ。
「意味がないとわからない」
「なにが?」
「さっきからこの子の精神を縛っている魔術の鎖を暴走させて粉砕しようとしてるわね?」
「…………」
「他人の深層にまで干渉できる。なるほど、貴方はその禁術をかなり高度な域で扱えるのね。でもこの子のスペックが高すぎるいやこの場合天才の域にまでは干渉が上手く出来ないみたいね」
思わず舌打ちしてしまう。
生まれた時から忌み子として嫌われてきた。
全ては禁術を生まれ持った才能の一つとして持っていたから。
それでも今を生きているのはきっと幼馴染の真美とその妹の優美に出会ったから。
凡人は幾ら努力しても人一倍努力する天才には勝てない。
「そうだよ。俺は凡人だ。でも同じ天才で呪いの類にハチャメチャ詳しい魔術師ならどうだろうな?」
「まさか!?」
「二分五十二秒稼いだ! 後はその力でバカ姉貴を救ってやれ優美!」
「こら! 後八秒!」
「あーもお、最後まで人使い荒い奴だな。魔術術式展開『聖鎖領域』(サンクチュアリ)!」
聖なる鎖が時空を裂いて出現。
鎖は彼女に巻き付き、全ての魔術を封じる能力を持つ。
高等魔術の一つにして、真美から教わった抑止力の魔術。
敵を傷つけるのではなく、敵も殺さず救うと言った最強の魔術師が編み出したオリジナル魔術。形式上弟子にあたる者はもしもの時のためにこの魔術を授かっていた。ただし効果時間は格上相手にはかなり短い。
「へへっ、お前相手なら十秒も稼げれば十分ってな!」
師弟と姉妹の絆が編み出した一瞬は姉の胸に呪解魔術を付与した短剣を突き刺す時間を与えた。
「き、きさまぁああああああ!!!」
「悪いけどお姉ちゃんは返してもらうから!」
短剣は深層領域の奥深くにある真美の力を抑制していた鎖を浄化し消し去った。
彼女――悪の権化が憑依した真美は自分を取り戻す。
「あれ? 私一体?」
戸惑う真美に事情を説明する優美。
その姿を確認した者は静かにその場を立ち去った。
「後は上手くやるだろ。天才姉妹にして俺の師匠二人が」
ふっ、と鼻で笑った男は空を見上げて「あばら四本と脱臼諸々……バレないうちに早く手当てしとこ」と、修行不足を今からどう隠そうかと考える。
昨日の味方(幼馴染)は今日の敵(幼馴染)とか勘弁してください! 光影 @Mitukage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます