第4話
4話
「あれ? ちょっと待ってこれ落としたよ?」
「えっ?」
「いや、今落としたよ? それを俺が今ナイスキャッチした」
「え、違いますけど」
「いや、違くないって! 本当に、ほら、これ、鮭とば」
「鮭とば!? いやいやいや私そんなの食べたことないし! ってかそんなの食べるのおっさんだけでしょ」
「いやいやいや、偏見凄いな! ってか、これ君のでしょ? ってかもう君のであってお願い!」
「えぇ……」
「ぶっちゃけこの後予定ある?」
「一応ちょっと買い物をしないと」
「あー、でも買い物は明日でもできるか。じゃあちょっとお茶しない? お茶はほら、今しかできないから」
「えー」
「あ、そうだ。あそこのカフェめっちゃ映えるメニューあるんだった。それだけでも見にいかない?」
「じゃ、じゃあそれだけなら?」
「よっし、じゃあ行こっか」
❇︎
「ふぅー」
今日も余裕だったな。それにしても落とし物戦法は相変わらず上手くいくな。適当に俺の好きなツマミを買うだけで女の子も釣れるんだから一石二鳥だ。
ま、そんな小手先の技術なんて使わなくても大抵の女は俺の顔を見れば大体落ちる。それに、そういうことに興味ない女や脈ナシの女にはそもそも声を掛けないから、結果全勝してしまう。
「はぁ……」
これから何しよ。流石に女の子ばっかりだと胃もたれする。あれはちょっと生物学的に全く別の生き物だからなー。話を合わせることはできてもそれが楽しいとは限らない。ほんと、女子はよく生きてるよな女子だけのコミュニティで。
もう当たりはすっかり暗くなっていた。いや、明るくなってきた、の方が正しいか? この街は今からだと言わんばかりの雰囲気と人だかりだ。この灯りの中に適度に癒してくれる遊びがあればいいんだが。
「あーあー」
何か面白いことねーかなー。まあ、そんなことを思ってるウチはこねーか。自分から探しにいかないと。そんなことを思いながら俺は路地裏に入って行った。そして
ッダン
「ってー誰だよ、あぁん?」
「んぁ? お前こそ誰だよ。ぶっ殺すぞ?」
一人の男にぶつかった。
「おい、今思っきしワザと俺にぶつかったよな? なぁ、お前もそう思うだろ?」
よく見ると俺がぶつかった相手は俺よりも絶対に年上でガタイも大きい、二人組だった。イカつい人相にイカつい服装、もしかしたらヤのつく職業かもしれない。そんなレベルだ。
「おいおい、ガキが粋がってんじゃねーよ!」
ボゴッ
「うっ……」
「今すぐ謝ればボコボコにするだけにしといてやるよ、ほら、さっさと謝れよ」
「……」
俺の口は動かなかった。それはつまらない俺のプライドからか、はたまたこの世に対する絶望からか。
「あーあ、そんな反抗的な目するんだ。おい、ガチでやんべ」
そこからはあまりに一方的だった。常に俺の体のどこかしらが殴られ続けた。俺の脳みそは痛みしか感知していなかった。
「ほら、最後のチャンスだ。今すぐ土下座して頭を許しを乞え」
俺の唇は切れ、血が流れていた。殴られすぎて頭もクラクラしてきた。
「マジかよコイツ。命が惜しくねーのかよ」
ガッシャーーン!
「クハッ」
シャッターに思いっきり打ちつけられた。全身から空気が押し出され、一瞬呼吸が出来なかった。
「そこらへんでくたばってろ、カスが」
そう言って男たちは去っていった。どうやらもうこれで終わりらしい。結局あれだけ大口を叩いていたのに俺のことを殺してはくれなかったらしい。俺の殴られ損じゃねーかよ。
「ペッ」
俺は血を吐き出し、歩き始めた。
それにしても今回はかなりいかれたな。まだ頭がちゃんと回らないし、足もおぼつかないし、視界もぼやけてる。殴るだけ殴っておさらばとかどこのチンピラだよ。
キキーーーッ!!
その音が聞こえたのは俺の目に眩しいライトが入ってきた後のことだった。
ッダーーン!
俺はその時、何を感じていたのだろうか。痛い、とすら思っていなかったように思う。ただ、ただ……
・
・
・
ーーー【打撃無効】を獲得しました。
生ける咎人 magnet @magnetn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。生ける咎人の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます