彼の決意
「天雷梅? 確か梅の種を割ると雷と雨が降る魔豊植物か?」
「はい。その天雷梅が『瘴気』にあてられて初名が生まれたんだと思います」
「だから、その
「初名は敵じゃあない!!」
遮る怒号に初名だけがビクッと肩を振るわせた。
「……いえ、正確には、彼女は
感情的になっては状況が悪化してしまう。香輔は落ち着いてから、言葉を慎重に並べる。
「天雷梅の豊穣術は『雷雨』。彼女の力が雷を宿して
鳴滝義機なら初名が紫電を纏わせ、立ち向かっていく姿を目撃したはずだ。
「初名はきっと人の役に立てる。僕が証明して見せます! 彼女のことは僕に任せてくれませんか!?」
正直、こんなことを言うのは気が引けた。初名を利用しているようで香輔は心が痛かった。
「任せるって……、あなた本気で言ってるの?」
「お願いします! 代表には僕が説明します!」
「その必要はない」
それは不意に言い放った。
「星雪君の能力は私がよく理解している。星雪君を信じても問題ない。梅咲君は彼に任せてやってくれ」
梅乃花春告が護衛を連れて現れたのだ。
いや、それだけではない。
「っ!」
香輔は自然エネルギーを感じた。
囲まれている。
姿は見えないが、おそらく『ラタトスク』の人員が周りを取り囲まれている。少しでも動くと容赦はしない、と脅すように。
退路を断たれた。
(……いや、助かったのか?)
むしろ、梅乃花春告が大きな説得要因になる。香輔にはもはや打つ手がない。
「鳴滝君、君はこのまま二人の教師として迎えても大丈夫だ。私が学農長に話しておく」
「代表。本気ですか?」
竹下は唖然とした。
(この子、星雪香輔は何者なの?)
「問題ない。全責任は私が持つ」
「代表……ありがとございます」
「いやなに、私の方こそ礼を言いたい。君達は
その言葉にドッ、と肩の荷が下りた気がした。これまでの警戒と緊張感から一気に解放された気分だ。脱力感が酷く襲いかかる。
だけど、初名だけは顔を強張った。
「心配ないよ初名。梅乃花さんは『ラタトスク』を取り締まる代表なんだ。多分、もう大丈夫」
警戒を解くために落ち着かせる。
そんな警戒心丸出しの初名を無視して春告は声をかけた。
「君が梅咲初名君か?」
代表、梅乃花春告は初名の顔をじっくり見て、
「ふむ、なるほど」
と、何か納得したようなことを言った。
「そうか、君が
「! はっちゃんを知ってるの!?」
「知っているも何も、私の姉だ」
「はぁっ!?」
素っ頓狂な声で驚いたのは香輔の方だった。
「うむ、香輔君が知らないのは無理もないか」
そんな話聞いたことないと、顔に出ていたのか春告は続けた。
「もう二十年以上前の事だが、初枝は梅乃花家の縛りに嫌気をさして出て行ったのだ。私もそれまで会ってはいなかったが、久しぶりに連絡が来てね。それなのにいきなり『あがぁの大事な梅咲初名っていう子が魔豊学園に行くから入学手続きよろしく』とだけ一方的に押し付けられたんだ」
「……もしかして、初名が魔豊学園に来れたのも」
「私と学農長は古い友人なんでね。話は通して貰った」
「ちょ、ちょっと待ってください代表! じゃあ、その梅咲初名が
竹下恵が声を荒げる。
だというのに、春告は至って冷静な顔で。
「いや、初枝はその子の資料だけ送られてきて、実際に会ったのは今が初めてなんだ」
そんなめちゃくちゃな……。と竹下は呆れていた。
しかし、春告はお構いなしに続けて言った。
「何かあるとは思っていたが、まさか
はははっ。と何が面白いのか、一人だけ笑っている春告に注目を浴びる。
(もうこっちは笑う気力も無いのに……)
初名を連れ戻しに『樹海公園』まで来て、
香輔は色々とゲンナリしていた。
だが、『ラタトスク』の代表である梅乃花春告がこの場を治める。
もしも、彼がいなかったら初名は……。
「僕達は、また魔農学校に戻っても良いんですね? いつも通りの学校生活に」
「もちろんだ。君達二人は学校に戻ってゆっくり休みなさい。我々は
「はい。シロカブリの残骸がある開けた場所です」
「分かった。……それより立てるかい? 送ろうか?」
「いえ、大丈夫です。このまま初名と帰ります」
「……そうか、無理はしないでくれよ。鳴滝君と竹下君は我々と一緒に現場まで案内を頼む」
そう言って、春告は『樹海公園』の入り口へと去って行った。それと同時に周りの自然エネルギーの流れが薄まっている。おそらく、『ラタトスク』の
周りからの殺意と圧力が無くなった事で香輔の緊張感がやっとのことで解けた。
だが、竹下だけはこちらをチラッと見た。鳴滝に促されたが、まだ納得していない様子だった。
二人だけ残った場所は静寂に包まれる。
一拍置いてから、先に口を開いたのは香輔だった。
「ごめん」
「何が?」
「初名が憧れる学生生活を壊して。もしかしたらこの先『ラタトスク』からの監視があるかも。それだと今まで以上に窮屈になるだろ」
「コウちゃん、わえは別に後悔はしてへん。役に立てるんだったら喜んでそれに従うし、
「違う。本当だったら普通の女の子でいたいお前を僕の
「別の方法ってコウちゃんが犠牲になるってこと?」
「……、」
いや、例え香輔が犠牲になろうとしても初名は止まらない。彼女の使命が呪いのように足掻いて、生きる意味を見出せないまま戦い続けるだろう。
このままじゃダメだ。香輔は決意した。
「コウちゃん。わえは
誰よりも優しく、触れたら壊れてしまいそうな女の子を放っておくことは出来るだろうか。味方はおらず、
少なくとも目の前には、今にも泣きそうで助けを求めている女の子にしか見えなかった。
「……だったら」
そう、香輔は決意を表す。
「その使命は何も一人でする必要はないだろ? 僕の
「コウちゃん?」
いいや、そもそも。
「一人で抱え込むな。お前がそこまで言うなら、今度は僕のわがままに付き合ってもらう」
彼は最初から見捨てないと決意していた。
世界樹に仇なすキミへ、 竜間巧 @ryu_ma
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