第2話 卒業

今日は、卒業式だ。


来賓挨拶や、卒業証書授与、校長のやたら長い話を聞かされ、校歌でおしまい。


「何だかあっけないね」

「3年間、マジ短かったな」

「だよね…なんか寂しいかも。4人、バラバラの大学だし」

「まぁもう2度と会えなくなるわけじゃないし、気持ちよくこの最後の日を終わろうぜ」

「あー、永人のくせになんか格好つけてるぅ」

「なんだと!?萌!」


「「あはは!」」


校門で、意外とも言える、人物からその言葉が漏れた。

「もう…勉強、教えられねぇな…」

「みんな永人のおかげだもんね。受験受かったの…」

「だな…感謝してるよ、永人」

「うん。すごく…うんと…すごく…」

涼子の声が掠れている。

「涼子…?」

「ちょっとこっち来て」

そう言うと、萌と智明をその場に残し、ごめん、と言いたげに、永人のブレザーの襟を乱暴に引っ張り、300mくらい2人から離れて、

いつも明るくて、どんな時だって笑顔を絶やさなかったあの涼子が泣いていた。

「なんのドッキリだよ…」

「…行かないで」

元気が取り柄の、涼子だったのに、ウィスパーボイスのように、永人に永人が聞き取れているのか、解らないほど小さな声で、


「好きだよ…永人…ずっと、好きだった…」

「…涼子…」


次の言葉を、涼子は解っていた。


「ごめん…俺は…」

「知ってる。だてに3年間一緒に居たわけじゃないんだから!…でもね、萌は智明を好きだよ?」

「知ってる。俺もだてに智明と3年間つるんでたわけじゃないからな…」

「永人は…私を嫌い…?」

「んなわけねーだろ!………ただ…俺も伝えるだけでも、伝えたいんだ。俺は…涼子が言う通り、萌が好きだから」

永人の視線の先には萌がいた。

「行ってくるわ…」


永人の中にある、明るい涼子。

大好きな友達が自分のせいで、泣いている。

背中に流れる、涼子の涙が、何とも不思議な痛みで背中を襲ってくる。

それでも…、


「待って!待ってよ!永人!行かないで!…行かないでよ…」


永人は、くちびるを噛み締めて、歩くのをやめなかった。


涼子は失恋した。

そして、その失恋は次の失恋を呼び、また次の失恋を呼んだ。



「涼子、大丈夫か?」

「ん?」

振り向いた涼子の顔はとびっきりの笑顔だった。

「あ、見てたよね?大丈夫、大丈夫!自分自身のけじめに、言ってみただけだから」


この時、智明は、自滅すると解っていながら、涼子を抱きしめた。


「ごめん…」

「…なんの…ごめん?」

「俺、涼子を応援出来ない。俺が…涼子を好きだから…」


「智明…涼子の事好きだったの?なんで?みんな何もかも知ってて、私だけが…知らなかったの?みんな、なんで一緒に居られたの?私は…」

「萌、4人が4人でいられたのは、みんなが『片想いの片想いの片想いの片想い』だったからだよ」

「どういう…意味?…それは、私も智明を好きだったから?」


「かも…知れないな」

答えたのは永人。


「俺たちは、最高の友達だったけど、青春に染まったら…本当にこれからも一緒に染まり続けたら、きっと傷のつけ合いになってたんだよ、きっと」

頭がよくて、冷静な永人が、4人の気持ちを静かにそれぞれの胸に、またゆっくり、深呼吸して、そっと仕舞うように、1人で残りの3人を抱き締めた。



「じゃあな、みんな。言っとくけど、俺、同窓会は絶対、何があっても、出席しないからな!!」

「うん!私、みんなの事なんて全部忘れる!馬鹿永人に告白した事も、ぜーんぶ忘れる!!」

「私だけ、何だか蚊帳の外にいた気がするけど、3年間思い続けても、実らない恋もあるんだって肝に銘じます」


4人は涙ボロボロ零しながら、また一歩、大人になった。




けれどある意味、すべてが暴かれた手品は、2度と感動することが出来ないように、1度、好きだと言って、それをすべて、全部、何もかも忘れる事なんて出来るはずがない。




4人は、悲しいほど愛している、

「好き」

の言葉を口に出してしまった瞬間、静かに青春を、深い海の底へ消し去った。


もう、戻れない、深い深い深海へ。


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