片想いの片想いの片想いの片想い

第1話 本当を、多分、みんな、知ってる

あの一言で、私たち4人は、深海に溺れて行った。




「おはようー!もえ

教室に入ると同時に、すぐ由良ゆら萌に気付いて、手を振りながら、元気よく教室に入って来たのは、神戸涼子かんべりょうこ

「あ、涼子。おはよ。今日も元気だね」

この落ち着いて、可愛らしい萌と、凄く元気で、声の大きい2人の印象は全く違う。

「まぁ、それだけが私の自慢だから?」

「ふふ」

元気すぎる程元気な涼子と、見るからにおしとやかな萌。

こんなまったく性格の違う2人は、ごく自然に朝の挨拶を交わす。

「おーす。また真逆のお2人さん、早いね」

何だか軽々しい口調で、2人の会話にねじりこんできたのは、お調子者だけど、勉強は学年のトップ争いを繰り広げる優等生の弘中永人ひろなかえいとだ。

「ん?智明ともあきまだ来てないのかよ?いつも萌と同じくらい早く来てんのに」

「あ―…そういえば来ないね…あ!来た来た!智、おはよう!」

(あぁ…4人て楽しいけど…もう時間ねぇな…)

そう暗示たのは、永人。

「セーフ?」

「セーフ!」

「珍しく寝坊しちゃってさ」

この高校で、1年生からクラス替えもなく、入学してからすぐに個性的な面々ではあるが、涼子、萌、永人、智明の4人は導かれるように、同じ教室で同じ呼吸を吸った瞬間、もう掛け替えのない友達になっていた。


4人は学校の昼休みも、学校が終わった後も、ファミレスでドリンクバーと大盛のフライドポテトとハンバーグ単品、後は適当にサラダなんかをつまみながら、おとなしくテスト勉強したり、時には(もうほとんど)2時間で勉強会だった事を忘れ、またおしゃべりの時間に戻る。


それはまるで鎖ではなく、見えない蒼い春の風に乗って生まれたのさえ、奇跡みたいな、やらかい絆だ。


…のはずで、


…だけれど、


…それは悲しいほど、


…絡まり合った、


…絆だったんだ…。





ポコ!涼子が教科書を丸めて、ある人物の頭を軽く叩いた。

「って…」

「いつまで寝てるのよ、永人!」

「ん?授業終わったのかよ…もっと寝たいのに…」

「はぁ…。これだから永人は…。こんなに努力して無いのに、毎回テストでトップ争いしちゃうんだから、羨ましいわ…」

「賛同」

「右に同じ」


「ぷっ」

「あははははは…!」

「んだよ、人の頭叩いといて」

「あぁ、足りなかった?じゃあ、永人君、次は拳が怒鳴り声をあげるわよ?」

「ぎ…」

「こらこら、涼子、もうそのくらいにしときなよ、こんなのいつもの事じゃない」

「だから腹立つのよ」

「はいはい、ほら!いつものコース、ガスト行くぞ!テスト来週だからな、永人!!俺たちに力をくれ!」

「「「くれ!」」」

「ふぁいふぁい…ふあ…」

あくびをしながら、永人はゆっくり立ち上がり、みんなにいざなわれて4人は教室をでた。


どうせ2時間が関の山。

それでも、永人はきっちり教えてくれるし、教え方が先生より断然わかりやすい。

だから、2時間あれば涼子も、萌も、智明も、テストの準備はばっちりなのだ。

「涼子、そのケーキ…おいしそうだね…」

「ん?絶対あげないよ」

「頼む!」

「い・や!」

「もう涼子、永人にも少し分けてあげなよ。ねぇ?」

「そうだぞ?勉強教えてやったのは誰だっけ?」

「う…解った!解りました!はい、残りは全部食べて良いよ」

「まじ?いただきます!」


永人のケーキを食べる姿を愛しそうに見つめる涼子。

その瞳を見て、静かに拳を握りしめたのは、智明だった。


ザクッ!


智明は、永人が涼子からもらったケーキにフォークを突き刺した。


3人は唖然とした。


…が、


「俺も化学は教えたろ?だから俺にも一口の権利あるよな?」

「おま…一口って…もう全部じゃんかよ!!」

「「「あははははは」」」


軽い冗談だったから、何も起こらなかったけれど、でも、起きたんだ。

透明の戦争が…。


だから、4人は一緒に居られた。

何も知らなかったから。

いや、すべてを知っていたかもしれないから、誰もそれについて触れない。

だって、一緒に居たいから。



居たかったから―…。

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