振られた男

結騎 了

#365日ショートショート 130

「本当にそのまま読み上げてもよろしいのでしょうか」

 結婚相談所のカウンター。仲人は生唾を飲んだ。

「お願いします。俺がどうして振られたのか。どこに問題があったのか。仲人であるあなたには、相手の女性から理由のメールが送られているはずだ。それを、知りたい」

「……本当によろしいのですね」

「ああ、大丈夫だ。しかし思い当たるフシがない。映画鑑賞が共通の趣味ということで、会う度に会話が弾んでいたはずだ。映画談義が盛り上がり、とにかく楽しかった記憶しかない。自分は学生時代から映画が好きで、今も映画に生かされていると言ってもいい。だからこそ、生涯の伴侶に出会えたと思ったのだ。いったいなにがお気に召さなかったのか、いくら考えても分からない。このままでは先に進めない」

 マウスをすーっと動かし、仲人はメール画面を開いた。

「それでは、文面のまま、読み上げます」

「ああ、頼む」

「仲人様、この度はすみません。ご紹介いただいた男性とは、結婚はおろか、お付き合いも考えられません。確かに趣味は同じ映画鑑賞でした。会話も弾みました。でもそれだけなんです。あの人は映画が人生になっています。いくら刺激的な映画の話をしても、それはあの人が刺激的なことにはなりません。いくら賞を取った監督の話をしても、あの人が1ミリもすごい訳ではありません。映画は本当に素晴らしいものです。人類が誇る文化だと思っています。でも、映画がいくら素晴らしくても、それは映画の話であり、あの人のことではありません。映画ウンチク再生機とは結婚できないのです。そう、あの人はまるで、映画に生かされているようです」

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振られた男 結騎 了 @slinky_dog_s11

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