黒い物体と共に
『警告。このエリアに高レベルモンスターが発現しました。推奨レベル、30レベル以上。ジョブは戦闘系ジョブ推奨。推奨レベル以下、または戦闘系ジョブでない冒険者は、非常に危険です。戦闘を希望しない冒険者は、ただちにエリアから撤退してください』
高レベルモンスター……。
すると、後ろから、明らかにまずい大きな足音が聞こえてきました。足音が聞こえる度、地面が振動します。
「わわ、逃げるニャ。追いかけてきたニャ」
黒い物体が叫びます。そして、私の腕の中に飛び込んできました。
「ちょっと! 勝手に腕の中に潜り込まないでください!」
「仕方がないニャ! 自分で走ろうにも、追いつかれてしまうニャ!」
慌てた黒い物体の声に振り返ってみますと。そこには、私の身長の二倍以上はありそうな、大きな大きな、クマさんがいました。
「クマさん!? なんで私たちの方に!?」
「クマが持ってた果物を盗んだら、こうなったニャ!」
「いやじゃあ、返してくださいよ! というか私を巻き込まないでくださいよ!?」
「返すって言ってももう、食べちゃったニャ!」
「はい!?」
走りながら会話します。その間も、クマさんは後ろから恐ろしい地響きをさせながら迫ってきています。
クマさんの方を振り返ると、高レベル、危険の文字が見え隠れしています。ああ、このクマさんこそが、高レベルモンスター。きっとこんな、ゲームを始めてすぐに行きついたエリアであるこの森は、大多数のモンスターが、初心者向けの低レベルモンスターだったはずです。しかし、こういった高レベルモンスターも、何かしらの条件で発現するような状況があるエリアなんですね。
そしてこの黒い物体さんは、その高レベルモンスターを発現させる何かしらの条件を満たしてしまった。おそらく、クマさんの大事な食べ物を奪ってしまった、とかそんなところでしょう。
とはいえ、なんという不遇! 戦闘向きではないジョブである私が、こんな高レベルモンスターと渡りあえるはずがありません。そもそも、戦闘向きのジョブだったとしても、低レベルのプレイヤーだったら、相手にならなかった可能性すらあります。
私の腕の中で震えあがっているこの毛玉さんも、そもそもレベル1なのは、嫌でも目に入っています。この毛玉さんを置いていけば私は助かりますが、毛玉さんは助からないでしょう。それはさすがに、夢見が悪くなります。
とにかく全力疾走! それに尽きます!!
「このピンチを乗り切ったら! 何かお礼してもらいますからね!!!!」
そう毛玉さんに告げつつ、視界に現れるガイドをもとに、走ります。遠くに大きな建物が見えます。あそこまでたどりつけば!!!!
大人の事情というやつで、おそらくはクマさんも森へ引き返してくれるはずです!
キャラメシ!~VRMMO世界で、ほのぼのキャラメシお料理生活~ 工藤 流優空 @ruku_sousaku
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