君は、何をするつもりかね?<Ⅰ>

 まだ万全ではないサラを連れて結果が書かれているという掲示板がある所まで歩いていく。掲示板の周りには、朝早くにも関わらず多くの人が集まって騒いでいる。


 魔法使いに関わらず、試験には半分は受かるそうだ。狭き門と言うほどではないが、決して簡単ではない。


 掲示板の貼り紙を見て、喜ぶ人、泣いてる人、当然とばかりに頷く人など反応は様々だ。


 さてわたし達はどうなったか、番号を探す。わたし達は最後の方なので探しやすい。281、282、286……無い。二人の番号がどちらも無い。


 やはり昨日の影響で……と考えるが、サラが「あ」と呟く。


「……どうしたのかしら?」

「見て、あっち側。こっちとは別で番号があるよ」


 そう言われ、反対側を見る。1番から順に書かれている番号の隣、枠組みから外れた位置に番号が書いてある。


「えっと……「次の番号の者は黄等級となる 002 289」……サラさん、あなた受かってるわね」

「うん!002って、多分ロゼさんだよね?」


 確かカリムとアコが003と004だったはずだ。全部を把握してるわけでは無いが、放出魔法の試験だけで見ても、サラさんと同等の結果を残していそうなのはロゼくらいだ。


「……ん?」


 わたしは二人の番号が書かれている更に上を見る。


「「次の番号の者は緑等級となる 288」……緑等級、か」

「凄い!いきなり二つ飛んで合格なんて!」

「それを言うならサラさんも流石ね」

「リリアさんに言われると恥ずかしいな……えへへ」


 などと言っていると、わたしは自分の番号の下に一文書かれていることに気付く。


「「なお、この者は十三の刻より面談の方を行うため、準備すべし」……昨日のことかしら」


 少しだけ嫌な予感がするが、行かなかったら取り下げられる可能性もある。せっかく二等級飛び越えて始められるというのにたまったものではない。


 わたし達は救護室に戻り、時間少し前まで話をして過ごした。昼飯をひとりで取り、そのまま指定の部屋に向かう。


 扉を叩き、「失礼します」と言いながら扉を開く。中には試験の担当責任者である男、クレストが一人椅子に座っていた。


「入りたまえ」


 扉を閉めてクレストと机を挟んだ向かい側に置かれている椅子に向かう。歩きながら、横目で部屋を見渡す。


 隠蔽されているが、その下に別の魔法陣がある。水と風、後は光属性が複雑に入り混じった魔法陣が壁一面にあるようだ。


 この魔法は見たことがない。が、わざわざ部屋全体に隠蔽をしてまで貼り、恐らくこういう風に面談を行う場所にかけたい魔法と考えると──発言の真偽を判断するための魔法か。そ・れ・だ・け・で・あ・れ・ば・問・題・な・い・。


「失礼します。それで、ご用件はなんでしょうか」

「わざわざ来ていただいてすまない。まずは、今回の試験において優秀な成績を残し、緑等級になったことは大変素晴らしい限りだ」

「……恐縮です」


 クレストから称賛をうけ、それに言葉を返す。


「昨日の君の行動、こちらでも色々と物議を交わしたものだ。大元の原因となった二人が悪いのは勿論のことだが、それでも二人を閉じ込め、恐喝まがいの行為を行ったということを受け、そのような人を緑等級から始めても良いのだろうか。そういう意見が出たものだ」

「……申し訳ございません」

「君が謝ることではないさ。だが、それでも君が残した結果を鑑みて、最終的に緑等級を与える判断を下させてもらった。まあ、結果だけで言えばさらに上の等級でも良いのだが、生憎規則で「緑等級まで」と決まっているのでな」


 結果的には良かったものの、やり過ぎたことには変わりないだろう。時と場合を考えなければと考えていると、


「そう言えば、君はいつまで自分自身のことを隠しているのかね?」

「っ!!」


と言われ、思わず反応してしまう。


「君の隠蔽魔法は素晴らしい。少なくとも、その歳でそこまでできるのは【真人類オリジン】では稀だろう。だが、私が若い頃は度々戦争に駆り出されていたこともあって、索敵や看破の心得があるのでな」


 バレてしまっている以上、下手に隠しても意味がないだろうと思い、ローブを取る。眼帯まで取ろうとしたところ、


「ああ、眼帯は大丈夫だ。封印まがいの隠蔽に関しては、あまり触れられたくないところもあるだろうからな」


と言われ、取るのをやめる。


「ふむ、【森人類エルフ】の混血、といったところか。強化魔法の試験の結果は人づてに聞いているが、流石というべきだろう」


 【森人類エルフ】の髪色は銀色、あるいは薄い緑系の色になると師匠せんせいから聞いた。クレストはわたしと同じ混血の人と会ったことがあるのだろう。


「済まないな。「住んでた土地を追われ、【真人類オリジン】の街でお金を稼ぐために自分の身を隠して試験に参加する他の種族の者」という可能性もあるのでな。確認させてもらった」


 そういえば師匠せんせいは等級はわからないが証明書を持っていた。どうやって手に入れたのだろうか。


「しかし混血とは言え、放出魔法の時のあの魔法は素晴らしい。私も適正魔法が風ではあるが、少なくとも君の歳ではそこまではできなかっただろう」


 わたしはクレストの話の真意を探る。するとクレストが


「あの規模の魔法は本来戦場で使うような代物だろう。私も昔に似たような魔法を見せてもらったことがある。あの人は確か、【森人類エルフ】の長、「エンリ」と言う者だった」


 クレストの口から師匠エンリという単語が出て、わたしは言葉を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女は「答え」を希う でしりっとる @dl_decilitre

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ