もしかしてわたしって……!?<Ⅱ>

 明朝、日課も行わずに会場に向かう。開店の為に作業したり、店の前を清掃する音しか聞こえない中を足早に駆けていく。


 会場に到着し、救護室はどこか探す。途中で会った係の人に案内してもらい、救護室へ入る。


「あ、リリアさん!おはよう!」

「おはよう……。元気そうね」


 わたしの心配とは裏腹に明るく出迎えるサラ。


「凄いよね、治癒魔法って!雷で焦げた肌も、血が出てたのも治ってるんだよ!救護の人がね、「骨が折れていたりしていなかった分治りは早い」って」


 ……まあ、元気そうで何よりだ。そう思い、近くにあった椅子に腰掛ける。わたしが座った事を確認し、サラが話し始める。


「それでね、昨日の事だけど。穏便に……というか、もう少し優しく出来なかったかなって、二人とも泣いてたし……。あ、助けられた私が言うのも申し訳ないんだけどね……」

「うっ……ただ、あの時は二人とも強く出ていたから、こちらが力で優っていることを伝えないと話を聞いてもらえないと……」


 私がそう言うと、サラは


「そう!それ!なんだろう……良く言って子供同士の喧嘩で無理やり相手をやり込めるような……悪く言うと……その、獣みたい……?」

「……あなた、意外とえげつない毒を吐くのね……」

「ああごめんね!でも、一昨日もそうだよ。眠い眠いって言って、力抑える事を忘れてて……もしかして、子供っぽい?」


 「あの時は」と言おうとした時、ふと気付く。「力を抑える」と思っておきながらも、「成績を上げるため」に力を発揮した一日目。怒りに任せてあの二人を追い詰めた二日目。


 もしかしてわたしって、子供っぽい!?嘘……!?


 師匠せんせいと別れた8年前、当時十歳だった彼女がそこで人格者形成が止まってしまったからか、あるいは8年間の野生での生活による人との接触不足か、考え方がその状態で固定化されていたことに気付く。


 わたしの中の自分像は、もう少し物事を俯瞰して見ることができ、冷静な判断ができる方だと思っていた。


 しかしどうだ。俯瞰するどころか関わりに行き、冷静どころか感情任せの行動をしてるでは無いか。


 わたしがその事実に気付き、項垂れると、その姿を見てサラが笑う。


「……何?」

「ごめんなさい!でも、何だかおかしくって……。それこそ最初はいきなり空飛ぶことになって、色んなことが出来て「凄い人だな」って思ってたけど、今は「私と同じような少女」なんだなって」


 そう言い、またサラは笑い出す。それに釣られてわたしも笑ってしまう。


 この数日間、まるでただ自分を鍛えるだけの笑うことの無かった8年分を取り返すかのように笑っていた。それもこれもサラと出会えたお陰だ。そう思い、


「……ありがとうね」

「……?何が?」


とつい溢れてしまう。サラがふと


「ねえ、そう言えば──」


と言いかけた時、扉が叩かれる。


「失礼します。あらサラさん、思っていたよりお元気そうで何よりだわ」


 そう言い入ってきたのはロゼ。後ろには取り巻きの二人、カリムとアコが落ち込んだ様子で立っていた。恐らく、昨日ロゼにこってり絞られたのだろう。わたしが目に入ったのか、「「ひいっ」」と二人揃って悲鳴を上げる。


「ほら、お二人共」


と言いロゼの声で正気を取り戻したのか、サラの方を向く。


「あの……サラ、さん」

「昨日は私怨で攻撃してしまい……」

「「申し訳ございませんでした!!」」


 二人揃って謝る。サラは両手を振り、


「大丈夫大丈夫!ただ、他の人にはやり過ぎないようにね」


と昨日のわたしのような事を言った。


「全く、本当に困った人達ですわ」

「……一応、ロゼさんの事を思ってやってしまったことなので、あまり怒り過ぎないように……」


と言うと、


「そうですわ!そこですの!「わたくしのため」!そう思うのでしたら、何もせず!寧ろ堂々と!そうあるべきですと叩き込みましたので!」


 そう言い、ロゼは体を仰け反らせる。しかし、すぐに体制を戻し、


「それはそうと、一昨日、そして昨日と、わたくしの至らなさは痛感致しましたわ……。特に貴女方二人には魔法で勝てたと、とても言えませんことよ」


 頭を抑え、そう言うロゼにサラが


「そんな事な──」

「ですが!」


 「そんな事ないですよ」と言おうとしたサラの言葉を遮り、再び仰け反るロゼ。


「昨日負けたからなんだと言うのですの!来るべきその日まで!その日がいつかはわかりませんが、その日その時に勝てれば良いのですの!」


 そう言い、天を仰ぐように高らかに笑う。……ロゼのこの芯の太さは参考にしたいと思う。そしてロゼは、


「ではお二方……いえ、サラさん、そしてリリアさん。御機嫌よう。この街を旅立つのであればまたどこかで」


 そう言い、ロゼは頭を下げ、カリムとアコも慌ててロゼ以上に深く頭を下げる。ロゼは振り返り、歩き始める。しかし、ふと止まり、こちらに振り向く。


「そうでした、もう既に試験の結果が出てますのでご覧になられては?結果は是非御自身の目で御確認くださいまし」


 それだけ伝え、扉を閉めて帰っていった。わたしは疑問に思った事をサラに聞く。


「ねえ、そう言えば、あの二人とロゼさんって、どう言う関係なのか知ってる?」

「……確か親戚だよ。本家と分家…みたいな。カリムさんとアコさんは双子だよ」


 親戚にしてはあまり「似てない」とは思ってしまったが、見た目に関してはわたしはとやかく言えないので心にしまうことにした。

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