第20話 一番イヤだった感想
わたしがWEBで執筆を始め、かれこれ五年は経つだろうか。
人気作家にはなれなかったが、それなりに感想はいただけた。
たぶん500を超えていると思う。
もちろん、その中には好意的なものだけでなく、批判的なものもある。
エッセイなんかが多いだろうか。考え方の違いってやつだ。
この批判的な感想、表現によってはイラッとする。やけに攻撃的だったり、捨て垢での罵倒だったり、自分が規約違反を犯しながらの自己ルールの押し付けなど、さまざまだ。
しかし、そういった批判的な感想も、間を置けばある程度は流せるものである。
しょせんは匿名での書き込みだ。なんら責任を負わないとなれば、好き勝手に言うものだろう。
こちらだって同じだ。
匿名だからこそ、普段言えないことをぶっちゃけたりする。
そもそも、アカウント自体、単なるアバターだ。
ウソは書かないものの、誇張したりボカしたりと全て伝えているわけではない。
完全に自分自身とイコールではないのだ。
否定されたとて、自分自身の否定には繋がらない。
気に病む必要はないのだ。
ムカつくが。
まあ、そんな中でも順位づけはある。
内容そのものというより、生理的に受け付けない感想がでてくる。
そのトップワン。
それを今回紹介したいと思う。
最初は作品に対する感想だった。作品の内容に触れ、主人公を応援するようなもの。
感想としては嬉しい種類のものだ。
ただ、なんとなくだが、ちょっと引っかかる感覚があった。
なぜかは分からないが、一瞬身構えたのを覚えている。
その後、そのユーザーさんは何度も感想をくれた。
それも好意的な感想ばかりだ。いずれも応援してくれているのが伝わってくる内容。
それでもやっぱり、違和感みたいなのはずっとあった。
それからしばらくして、違和感の一部が判明した。
物語の受け止め方だ。ストーリー、世界観を楽しむというより、そのユーザーさんは明確なヘイトを向ける悪役を探していることに気がついたのだ。
「追放」というカテゴリーを書いていたのだから当たり前っちゃ当たり前なのだが、とにかく気に入らないキャラには、ひどい目にあってもらいたいような感じだった。
わたしは登場人物がそれぞれの考えにもとづき行動するよう気をつけている。
ときにはそれで主人公の予定にイレギュラーをおこすこともあるけど、それも物語だよね、みたいな感覚だ。
また、それが切っ掛けとなり、思いもよらない方向へ物語が展開していくなんてのも好きだったりする。
しかし、どうやらそれが気に食わないようだった。
主人公の邪魔となるものがどうにも許せないようなのだ。
そしてある日、「面白くない」との感想をいただいた。
主人公の思い通りにいかないのがイヤだとのこと。
なるほどなあと思った。
そういった見方をするのかと勉強になった。
また、ほかにも勉強になった部分があった。強敵との戦いだ。力で勝てない中、知恵をしぼってなんとか活路を見出すという展開がだめみたいだ。
スカッとしないのだと。
たしかに、ちまたに聞く、なろう読者の条件に一致する。
なろうのランキングを支えている人たちはこんな感じなんだなと知れた。
正直、感謝した。
――このときは。
あるとき、ふと気がついたのだ。
ポイント減ってない? って。
なろうはブックマークでもポイントが入る。だから増減するのは当たり前。
でも、なにか違和感があった。
もしかして、と思ってそのユーザーさんのつけたポイントを覗いてみた。
おっと、気持ち悪いとか言うなよ。
ポイントを気にするのは作家のサガだ。
それに、なにを読者が面白いと思うか研究するのは必要なことだからな。
ことだからなー!!
☆2だった。(なろうは五段階評価)
これだけ感想を熱心に書いてくれてるのに2か。
意外だった。つーか、以前見たとき5だったと思ったんだが。
やっぱりこれは……。
好奇心が爆発した。
その後感想をいただくたびにチェックしてやった。
それでわかった。
気に入った展開の場合、大喜びする感想を書いて評価を上げる。
気に入らなかったら、その旨感想でつぶやき評価を下げる。これを繰り返していた。
ウォッチングしていた俺が言うのもなんだが、さすがに気持ち悪かった。
もちろん、評価を増減するのは読者の権利だ。
しかし、それをまさか感想欄でアピールしてくるとは。
これはダメだ。なぜなら自分好みの展開になるよう作者に圧力をかけていると同義だからだ。
作者は必要以上に読者の評価に敏感だ。それも弱小作家ほど。
本人には自覚はないのかもしれない。
でも、なろうの理念には明らかに反する。
実は作者に何かを要求する行為は規約違反だったりする。
自分好みの展開を求めることはもちろん、続きをうながす行為も違反なのだ。
「めっちゃ面白いです! 続きを早くお願いします!!」
ダメらしい。
俺は超うれしいが。
今回のケースでは規約違反を適用するのは難しいが、それゆえに個人的にはもっとタチが悪いと思う。
しかも無意識に違いない。説明してもなにがダメか本人が自覚できないパターンだろう。
その後、感想をもらうのが楽しくなくなってしまった。
本来なら「感想が書かれました」その赤字の報告がなにより嬉しかった。
でも、逆にストレスに感じるようになってしまった。
そんな中、ネット小説大賞九の結果が出た。
以前書いた通り落選だ。
この件に関しては逆にホッとした部分もある。
物語を終わらそうと決心できたからだ。
で、きりのいいところで打ち切り。
最初にかがげた謎を明かし、大きな目的をひとつ達したところで完結とさせていただいた。
結果はどうなったか。
なんとなく予想はつくだろうか?
そのユーザーさんは、中途半端だと不満をのべ、捨て台詞とともにブクマと評価をはいでいった。
ホッとした。もう関わらなくて済むと。
じゃあ、最後に言い返しておくかと返信させていただくことにした。
で、彼のアカウントを今一度見た。
なにやら小説を書いていた。
とうぜん読む。というか、感想をいただいた時点で実は読んでいた。
そのときは特にリアクションしなかったが、理由は察して欲しい。
なになに。二次創作?
それも書籍化していない、なろう一ユーザーの作品のだ。
ふ~ん、と思った。
元作品に別に興味は湧かなかった。
とはいえ二次創作の方は、いま一度読む必要がある。
感想返信で触れねばならないからだ。
……
「は?」
いまいち意味がわからなかった。
文章としてかなり難解だったのだ。
これは困った。
だから、わたしは正直に書くことにした。
なにを書いているのか理解できませんでしたが、とにかく熱い気持ちは感じることができたと。
ぜひとも自分のように中途半端ではなく、完結まで導いて欲しいと。
もちろん、これまで感想をいただけたことの感謝をそえて。
しばらくしてメッセージが来た。
ダイレクトメッセージだ。
「二次創作なのでこちらの作品を読んでくれれば意味が分かります! とってもいい作品なのでぜひ読んでくれ」と。
これはビックリだった。
ポイントを剥ぎ、捨て台詞まで残した相手に営業とは。
創作元の作者のことを相手がどう思うかとか考えないんだろうか?
同時に、アッパレとも思った。
作品を発表した人ならわかってもらえると思うが、けなされるとどれだけ心が痛むだろうか。
正直、想像の数十倍つらいものだ。
だが、彼はわたしの言葉に怒ることなく返信したのだ。
すごいな、かなわないなと思った。
モニター越しに、賞賛の拍手を送った。ついでにブロックしておいた。
こうなると逆に興味がわいてきた。
彼にそこまで思わせる作品とはどのようなものだろうと。
さっそくアクセスしてみた。
なになに。
ポイント二万。書籍化は難しいが、まぎれもない上級作家だ。
公開している作品はひとつ。よかった読むのはひとつで済む。
ふむふむ。あまり群れるのが好きではない人のようだ。
ん? 活動報告を書いているぞ。
それも二つだけ。
う~ん、ちょっと気になるな。読んでみよう。
「他人の感想欄でわたしの作品の宣伝をしている人がいます。自演していると思われるのがつらいです。正直困っています。本人にやめるように言っても聞き入れてもらえません。もし被害にあわれた方がいたらおっしゃってください。謝りにいきます」
ヤツだ。
俺は確信した。
ちなみに元作品は結局読まなかった。
メンドクサかったので。
それ以上、特にリアクションは起こさなかった。
メンドクサかったので。
これが一番イヤな感想だ。
参考になっただろうか?
※おまけ
もらった感想を500と書いたが、書いた感想は1000以上だ。
感想が欲しければ感想を書いた方がいい。
これ、ほんとうに不思議なんだけど、感想を書くとなぜか読み専の人からも感想をもらうことが多くなる。
お返しで作者が読んでくれるのはわかるんだけどね。
なぜか関係ない人が感想をくれるんだ。
ほんと不思議。
※この作品はフィクションです。
登場する人物ならびに団体は架空のものです。
そういうことでお願いします。
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