笑う罪人の影
仲仁へび(旧:離久)
第1話
その罪人は影を複数持っていた。
普通、人間には影が一つしかない。
しかし、なぜかその罪人は、人の影を奪う事ができた。
影を複数持つと、自分を偽る事ができるようになる。
多くの人から逃げる必要があった罪人は、影がいくつも必要だったのだ。
一方。
影を奪われた人間は、存在できなくてこの世から消滅してしまう。
誰もその人間の事を覚えていないし、その場を目撃していたとしても記憶にとどめておく事はできない。
変化に抗う事は不可能だった。
そうして奪われた影は罪人の影になり、より一層大きくなり、色合いが暗く濃くなっていく。
逃走を続ける罪人は、影を奪い続けた。
そうして、いくつもの影を持った男は、本体より影の方が存在感が大きくなってしまう。
結果、罪人は百個目の影を奪った瞬間、影に飲み込まれてしまった。
罪人は、自分の足元にある影が「ふふふ」と笑うのを聞いていた。
影は罪人を食いつぶし、この世に影人という新たな生命として誕生する。
本体である罪人がいなければ存在できなかったはずの影は、あまりにも強くなり過ぎた。
影だけで、存在できるようになっていた。
その影人は「やっと俺達の時代がきたぞ」と言って、世の中を自由に歩き出しはじめた。
その様を見た他の影は、みな「ふふふ」と笑いだしていた。
笑う罪人の影 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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