Chapter1 崩壊の始まりに
Ep1.Grief ー嘆きー
荒廃した都市。
何1つ、残っていないこの地では、10年前人々の前に現れた機械生命体その魔の手による侵略によって、人々は無残に殺されていった。
彼らはどこからやってきて、どのように動き、何の為に人をここまで襲うのか。この現状においても謎は解明されないままだった。
この10年で些細ではあるが、判明したことが1つある。
それは、機械生命体彼らの体は半分機械、そしてもう半分は生命体ということ。
有機と無機両方を兼ね備え持つ彼らは、今日も無差別に死に怯える人々を捕獲する。
「や、やめ、やめろおおおおおおお!」
不可抗力ながらも手に持つ銃で迎え撃つ人間。
しかし機械生命体には、普通の武器は通用しない。
人前に現れた巨大な機械生命体3体は、距離を遠ざける少年を壁まで追いかけ続けて、抵抗するその少年を巨大な腕で持ち上げた。
身動き1つ取れない、剛力。必死に藻掻いて脱出を試みる彼だが、力量に差が開きすぎているせいで抜け出すことすらできない。
機械生命体は力強くその男を握りつぶそうとした。だがその時。
俊敏に機体の胴体へぶつかる一台のバイク。大きさは機械生命体とは格段と小さな機体だが、その小さな車体が機械生命体へとぶつかる。
小さいのにも関わらずもの凄い突風により、その機械生命体は遠くへと飛ばされ、捕まえていた少年は束縛から解放される。
「お、落ちる! …………!?」
しかし宙高くから落ちてしまう彼にはもう、1つとて無事に着地する手段は何もなかった。
死の間際。もうダメだと諦めかけ、目を瞑ろうとしたその時、何者かが前で彼を抱いて助ける。
天からの授かりし者、あるいは奇跡か。
宙を飛んでいることに気がついた彼の耳に入ったのは、年少染みた少女の声。
「大丈夫? ……怪我はない? よかった間にあったようだね」
抱きかかえる彼の容態を確認し、無事を悟ったその少女は、そっと地上へ降り彼をその場に置く。
「ありがとう……あんたは一体?」
無表情をした、髪を2つ束ねた少女。腕まで伸びた長い白髪が特徴的で、全身を黒い衣服で身に纏う。
片手にはなにやら、短剣らしい武器を備え次の攻撃をしようと身構えているが少女は一体何者か。
「私は、人類の救世主。最後の希望」
「最後の希望……? あんたもしかして」
その理由を理解した彼に首肯する少女。
「……私の後ろ側をひたすら真っ直ぐ行って…………そうしたらシェルター行きのダミー階段が現れるから」
「…………分かった。あの3体、あんた1人で大丈夫か? なんなら加勢するが」
少女は首を横に振る。
「……問題ない。あれぐらいの機械生命体私1人で倒せる。気にせずここから離れて」
自信ありげに大丈夫だと彼に伝え、早くこの場から離れるよう告げる少女。すると彼は「死ぬなよ」の一言を告げて言われた方向へと疾走していった。
……彼らにとって唯一の希望。それは今少女が持っている武器がそれそのもの。
通称、対機械生命体兵器"
形状は、どれも黒金をした頑丈な武器である。
かつて戦時中に使われていた武器を、機械生命体と対等に戦えるよう改造した武器なのだが。
その威力はというと並の武器、数千倍以上に該当する。
立ち塞がる3体を相手に、機械生命体へ赴く。手に持っていた武器の刃を転回させ、刃を前に向け変形させる。
刃は目映い光で発光。電流のような音を発しながら、砲弾を放つ機械生命体達の攻撃を一振りで払いのけながら徐々に敵との距離を詰めていく。
数秒と経たないうちに3体中の1匹である、狼の形をした機械生命体の背後に回た。……こちらの存在に気がつかない機械生命体は暴れ狂うように体を動かし始める。
揺れ動く体の上で少女は、平然と何も掴まりなしで呆然とその場で立ち尽くす。
「…………」
重力に逆らう体の耐久性。いくら角度を変えられても振り落とされやしない。
後ろを振り向けられない、機械生命体の頭部へとゆっくり歩みを進め、少女は剣を突き立てようとした。そして再びその刃の騒音が鳴る。
音で存在に気づいた機械生命体は、後ろから少女を強引に振り落とそうとする。
不覚にも仲間の1体である人型の岩体を模した、機械生命体へと体をぶつけた。仲間割れと疑うその機械生命体。力量が高そうな大きな腕を、狼型の機械生命体に飛ばす。
だが狼型の機械生命体は、攻撃を口で噛んで止める。
加えている大きな腕を宙へ放り投げ、口から巨大な砲弾を放つ。
瞬く間にもその攻撃に耐えきれなかった、機械生命体は爆散。
破片だけが荒廃した街一辺に降り注ぐ。……それをよそ見に、少女は狼型の機械生命体の頭部を、手に持つ刃で下へと振り落とした。
……機械生命体の頭部はまっ2つに切断され下に落ちる。切られた胴体の中から血吹きさせながら。
バランスを崩す狼型の機械生命体であった体の部分。それを踏み台として少女は先ほどバイクで飛ばした、獣型……熊型の機械生命体のいる半壊したビルの方へと向かう。
すぐに行ける方向だったので、宙を猛スピードで駆け抜ける。熊型の機械生命体の面前に立つと、少女を機械生命体は恨むような目つきをした。
「……なんでそんな顔しているの? …………あなたが恨むのは間違っている…………。恨んで恨んで仕方ないのはこっちなんだから」
悲痛。少女の内底に眠る怒りを、独白するように呟く。
うなり声を上げる敵。かぎ爪で宙に浮かぶ少女を引き裂こうと攻撃する。
しかしその刹那。
「ぐがあああああああああッ!!」
先ほど、攻撃手段として使ったバイク。それが機械生命体を横切るように突進した。
宙に跳ね飛ばされる機械生命体。
「ありがとう。相棒」
少女はバイクに乗ると、ブーストをかけ、宙を舞う機械生命体に目がけてもう突進。
機体に詰まっている、広大なエネルギーを解放させ一気に解き放つ。
「エネルギー解放。オールグリーン。状態……正常。よしいける」
状態を確認すると、機体の加速度を緊急上昇させる。高速が光速へと変わり、機械生命体との距離を一気に詰めた。
そしてその機械生命体は抵抗できずに。
……瞬時。機械生命体の身を貫く。
少女は、散りばめられる肉塊を観望する。それは悲惨な光景そのもの。見るに絶えぬ地獄の世界。
あちらこちらと火の渦が巻き上がる。……苦痛のあがる声と、銃声音がその各場所から聞こえる。
そんな絶望しかねない、場から少女は飛び去る。
ポケットにしまう、ある物を見ながら。
……それは懐中時計。
少女にとってそれは大切な物。懐中時計を開くとそこには幼き日の自分と、今は亡き母親の姿がそこにあった。
懐かしみを抱きながらも少女はある場所へと向かう。
少女の名前はシアラ。
あれから10年の時が経った。
1人生き残った彼女は、あることから人類を守る救世主となり、地上にまだいる逃げ遅れた人々を機械生命体の魔の手から救い出す救出活動を行っていた。
……シアラはとある地面に降りて少しの間、そこで待機する。
暫くするとその場所から階段が現れ、下るように降りた。
中は機械増築となる空間。壁際にはあちこち機械板のような物が延々と張り巡らされている。
各場所には部屋が設けており、その中にある少し進んだ真ん中の分かれ道。一際大きな道の空洞の方を真っ直ぐ進み、その扉前に立つ。
自動ドアが開き、部屋の中に入り。
「ただいま」
少女が一言告げると、怯えながらじっとする人々がシアラの方を見て、軽く手を上げた。
奥にある、物騒な機械の部屋から1人の男が来る。
「おう、帰ったかシアラ。……で結果は?」
「
「りょーかい。
手に持っていた武器と、乗っていたバイクを彼に渡す。
この短髪のメガネを着けているのはアンレス。……ここ人類最後の砦である避難シェルター内で
少女の持つ武器全ては、彼の手によって作られた武器である。
並の素人が扱える品物ではないが、彼の存在あってのシアラの武器なのである。
機械生命体が現れてから数年。地上に住める場所を失った人類は、科学者の手によって作った、この地下シェルター内で生活している。
食料、水、居住、寝床から全て完備させてある場所で、今生きていく上でまずここに来れば困ることはない。
ただ未だに避難が滞ってないようで、地上で機械生命体と奮闘しながら生きる人々もまだいる。……その人々を救出しに地上へ赴いているのがこの少女シアラなのである。
それでもこれでは人類には光が届いていないも同然である。
しかしそれは仕方のないこと。地上には機械生命体が溢れかえるほど密集し、地上を支配しているのだ。
もはや人類の安定した住み場所はここしかない。
「新しい
「そうだな、あと数日かかるかな。完成すればそれなりの戦力になると思うぞ」
整備するアンレスにシアラは質問した。今作っている新型武器の調子はどうかと。
彼曰く、数日はかかるそうなので、しばらくはこれで踏ん張るしかない。
辛い戦いになるかも知れないが、シアラは拳に力を込め、覚悟をその身に宿す。
「………………」
「どうした黙りこくって」
細目に開くシアラを、アンレスは実の両親みたいに心配する。
だが彼には、少女の表情に心当たりがある。
「……また見るのか? あの夢を」
こくりと首肯するシアラ。
「あの時の景色が目に焼き付いて、頭から離れないの。……忘れたくても何度も見てしまう」
「…………なあに問題ないさ。シアラ、君は人の為、みんなの為、ちゃんと戦っている。だから気に掛ける必要はないさ。またうなされたら俺が手を握ってやる」
「でもまた迷惑掛けちゃうかも知れないし…………」
シアラは自分が時々見る夢を気に掛けていた。それは昔母親が目の前で機械生命体に殺された時の映像。夢としてたまにみるのだが、それをループするようにその日に何度も何度も再生されるように見てしまうとのこと。
それを見てうなされるシアラをアンレスは、その度に少女を介護するのだが、それをしてもらって申し訳なく感じたシアラは、こうして言いにくいよう彼に振る舞っている。
だがアンレスはそれでも構わなかった。少女はみんなにとって希望なのだから。
「迷惑なんて気にしない。例えその日また君がうなされても、俺は君の傍にいるだけさ。……迷惑をかけているなんてこれっぽっちも思っていないよ」
するとシアラは安心感を持ったのか。
「ありがとうアンレスさん」
笑みを浮かべながら礼を述べた。
暫くして。
「……? シアラどこへいくんだ」
「……いつものところ」
「……そうかあそこ好きだもんなシアラは」
「……あそこが一番落ち着く。……お母さんと話している、そんな感じがするから」
「…………」
シアラは地上に出て、この街で一番高い、半壊したビルの頂上で羽を伸ばしていた。
……少女にとってここが、一番安らぎを与えてくれる場所。
唯一、機械生命体が出没しない場所であり、地上の中では一番安全な部類にあたる。
なぜここに機械生命体が来ないかは分からないが、もしかしたら彼らの嫌がる何かがあるのかも知れない。
日が沈み行く景色を見渡しながら、少女は独白に浸る。
「……うん。私は元気。……お母さんは? …………そう。地上にはまだ悲しみの声が聞こえるよ。……辛い。……辛い。……辛いよとても」
胸の中に抱いているのは、大事な懐中時計。
これは10年前、地上で戦っている兵隊が唯一見つけたものらしい。……当時シェルターで籠もっていたシアラはそれを見て、既視感を持った。「あれは……お母さんの……?」と。
それを貸してもらい見てみると、紛れもなく母が大事に持っていた懐中時計だった。
形見としてそれを持つよう兵に言われ、それ以降ずっとこの懐中時計を大切にポケットの中へ入れているのだが。
いつもこの場所に来ては、懐中時計を取り出し、聞こえもしない母と独り言で話す。
今日もそんな情けない自分を憎たらしく思い、シアラは目から涙を零しながら言う。
「………………うん。絶対討つから。あの時お母さんを殺した機竜を。そうしたらお母さんまた………………また………………あの時のように笑ってくれる? ………………そう分かった。 …………じゃあそろそろ行くね私。みんなが待っているから…………」
シアラの顔は泣き崩れていた。
ノーライフ・ワールド もえがみ @Moegami101
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