ぼちぼちの人生

#365日ショートショート 129

　夫が死んだ。自殺である。

「自分は、ぼちぼちの生活が好きなんだ」。それが口癖だった。それなりに、良くも悪くもなく、ぼちぼちに。管理職にはなれなかったが、平社員では終わらなかった。ひどく狭いものの、平屋の戸建てには恵まれた。海外旅行には行けなかったが、国内では何度か行った。それなりを信条とする夫は、なぜか突然、自死を選んだ。彼に一体なにがあったのだろう。死んでしまうのはぼちぼちに反するのではないか。

　葬儀が終わり夫の遺品を整理していると、遺書があることに気づいた。なんということ。心臓が汗をかくのが分かる。震える手で文面を開くと、こう記してあった。

「これで墓地墓地だ！」