漆原恵流 6
代わる代わるに犯されて、傷物にされていく過程を撮影されて、全てが終わったのはとっぷり日が暮れる頃だった。
気丈に振る舞っていた転校生だったが、今では見る影もないほど哀れな姿を晒している。
使用済みのボロ雑巾と化した転校生は、
「おい、やらせろよ転校生」
「い、嫌よ」
「あ? お前の恥ずかしい姿をばら撒いてもいいんだぜ?」
一線を越えてしまった男子達は、以降も度々転校生を
あらゆる方面で尊厳を踏みにじられた転校生だったが、それでも彼女は自身の正しさを貫き続けようとしていた。一本筋が通った心は折れずに輝き続けていたのだ。
それが余計に恵流を
“いじめ”ても折れない、強姦しても折れない。
では、一体何をすれば彼女を屈服させられるのか。
そこで恵流に名案が舞い降りる。彼女自身がタフで倒せないのなら、無防備な家族を狙えばいい。自分だけならいくらでも我慢出来るだろう。だが、身内を狙われたらどうだろうか。大抵の人間ならすぐに
「実は私、お友達のお父さんに襲われたんです」
転校生の父親に強姦されそうになった。
市内の警察署に駆け込んだ恵流は、可哀想な議員の娘を演じて被害届を出した。
もちろん十割嘘である。思いつきで人を陥れようとしたところで、相手のアリバイと食い違って狂言を疑われるだろう。普通の街ならば、という注釈付きなのだが。
漆原家の権力の前ではお茶の子さいさい。警察すら彼女にとって都合の良い形に取り計らってくれるのだ。証言に矛盾があるのなら父親が不利になるよう書き換える。誰も漆原家を敵に回したくない。不正の一つや二つ、親やその前の代から平然と行われてきたのだ。
あっという間に転校生の父親は逮捕された。
支持者は「漆原家の娘に手を出そうとした不届き者」「住まわせてもらった恩を仇で返す裏切り行為」と怒りを露わに、家族もろとも
本当に強姦被害に遭っているのは転校生のはずなのに。それを知らずに扇動された者達に「強姦魔の娘」と
そして、恵流の望み通り、転校生の心は遂に折れた。
「もう、やめて……私の家族を巻き込まないで」
年が明けてからしばらくして。
底冷えする教室に戻ってきた転校生は、これまた寒そうな乱れた着衣で
「もう遅いわね。あーあ、早く謝っておけばよかったのに」
「お、お願いっ。は、裸土下座でも何でもする、だから……」
鼻血を垂らしながら無様な懇願だ。まじまじ見ると思わず吹き出してしまいそうになる。
最初は裸土下座させようとしていた。しかし、今更したところで面白味に欠ける。既に便器のような扱いを受けている女だ。それに比べたら全裸も土下座もハードルが低過ぎるだろう。
「私はどうなってもいいからっ。お父さんのことは嘘って、間違いだったって、正直に話してよ……」
「それって、私に“嘘ついてごめんなさい”しろって意味?」
散々逆らってきたくせに虫の良すぎるお願いである。これだから世間知らずは困るのだ。庶民と高貴な家系の価値が同等だと勘違いしている。何故こちらが
「いいわ。ただし、条件があるわ」
一つ、よからぬ案が湧いてきた。
「な、何をすればいいの!?」
「もし、あなたが私達の前から消えたのなら、証言を撤回してもいいんだけど」
我ながら名案だと自画自賛し、口元を三日月にしてほくそ笑む。
「それってどういう意味……」
「私を楽しませてくれる、とーっても刺激的でエンターテインメントな消え方をしてくれたら、あなたのお父さんを許してあげるってこと」
転校生の顔がみるみるうちに青ざめていく。寒さのせいではない、放たれた言葉の意味を理解して恐れ
直接的な単語を使っていないものの、要約すれば「面白い死に方で自殺をしろ」というのが条件である。遠回しで抽象的な言葉を用いて煙に巻くのは漆原家の
「私が消えれば、本当に許してくれるの?」
「ええ、もちろんよ」
自殺なんて出来るはずないだろう。
“いじめ”で心身共に破壊され、言われるがままに短い生涯を終える。そんな惨めな一生、恵流は絶対に耐えられない。転校生も同じのはず、自分の命と父の名誉を
などと
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