誰にも言えないリズディアの恋心を周りは知っている  パワードスーツ ガイファント設定 〜本人は、誰にも言えない恋でも、周囲は、その恋心に気付いても、本人には言わない。〜

逢明日いずな

第1話 リズディアの思惑と周囲の思惑


 大ツ・バール帝国の第一皇女であるリズディアは、15歳の時、最初の縁談を断った。


 それは、周囲に、リズディアが、イルルミューランに恋心を抱いている事を、確認させてしまったイベントになってしまっていた。


 リズディアとしては、誰にも言えない恋心だったのだが、断る理由として、勉強に精を出す事で終わらせる予定だったのだが、皇帝エイクオンとの会話から、考えを間違った形で感じ取ってしまったことにより、余計な約束をしてしまったのだ。


 リズディアは、その時の焦りからか、イルルミューランの名前が、頭の中に僅かに残っていたせいなのか、エイクオンにイルルミューランとイヨリオンの家庭教師を買って出てしまったのだ。


 自分の成績を上げる必要もあるのに、余計な事まで抱え込んでしまったのだ。


 しかし、そのお陰で、リズディアは、思いを寄せているイルルミューランと、自分の住む屋敷で生活を共にすることになった。


 リズディアとしたら、自分の心の内を隠して、思い人であるイルルミューランと一緒に暮らせるという、幸運を得ることができた。


 リズディアは、思わぬ幸運に、1人、喜んでいた。


(幸運というのは、有るのね。 それも追い詰められた時ほど、自分で考え、そして行動する事が、幸運を引き寄せるのね)


 リズディアは、自分の部屋で嬉しそうにしていると、ドアがノックされ、メイドが入ってきた。


「リズディア様。 イルルミューラン様が、お見えになりました。 それと、一緒にお見えになったイスカミューレン様が、リズディア様に、一言、ご挨拶を申し上げたいと言っております。 いかが致しましょうか?」


(あら、イルルったら、案外、早かったわね)


「わかりました。 伺いますわ」


 そう言って、メイドの方に歩いていくと、メイドは、リズディアを案内してくれた。




 応接室に、リズディアは、通された。


 そこには、イルルミューランとイスカミューレンが待っていた。


 すると、直ぐに、イスカミューレンは、リズディアに礼をする。


「この度は、愚息の家庭教師をしていただけると、陛下からお話を、賜りました。 誠に、ありがとうございます」


「いえ、これは、私の教える力を付けるためです。 イルルには、その手伝いをお願いしたのです」


 イスカミューレンの言葉に、リズディアは、少し恥ずかしそうに答えた。


(おや、これは、言っている事と、思っていることが違うのだな。 ……。 上手く、イルルミューランに、思いを抱き始めたみたいだ)


 イスカミューレンは、笑顔をリズディアに向けた。


「そうですか。 それでは、リズディア様が、この帝国を導く礎を築くため、愚息のイルルミューランをお使いください。 リズディア様のような方が、帝国の更なる繁栄を導くのです。 皇室の方から、このような申し出です。 私も、喜んで協力させていただきます」


「ありがとうございます」


 そして、リズディアは、隣のイルルミューランの顔を覗き込んだ。


 その表情は、少し恥ずかしいのか、表情を赤くして、俯いていた。


「イルル。 これから、よろしくね。 それと、ご家族と離れて暮らすようにしてしまって、ごめんなさい」


「いえ、そんなことは、ありません。 幼年学校を卒業してしまったリズディア様に、会う機会が減ると思いましたけど、今度は、毎日リズディア様のお顔を拝見できます。 む、むしろ、ご、ご褒美です」


 イルルミューランは、最初こそ、普通に答えていたが、言葉尻の方は、顔を赤くして、吃りながら答えたので、リズディアもイスカミューレンも驚いていた。


(あら、イルルも嬉しそうにしているわ。 私と一緒に居れる事が、イルルも嬉しいのかしら)


(おやおや、イルルミューランもリズディア様を好いているみたいだな。 これは、ラッキーだ。 上手く、計画通りに進んでいるようだ)


「それでは、リズディア様、愚息のこと、よろしくお願い申し上げます」


 イスカミューレンは、満足そうに伝える。


「はい、大切にお預かりいたします」


「それでは、私は、これで失礼します」


 イスカミューレンは、一度、イルルミューランを見るが、何も言葉をかける事なく、退出していった。


 それを見送った後、リズディアは、イスカミューレンに声を掛ける。


「それじゃあ、イルル。 これからよろしくね。 それと、あなたの部屋は、私の隣の部屋よ。 どういう訳か、部屋の壁にドアが追加されたのよ。 少し離れたイヨリオンに近い部屋を使わせようと思ったのに、お母様が、それだけは、絶対に譲らなかったのよ。 隣の部屋にするだけじゃなくて、扉まで付けるって、どういう事なのかしら」


 リズディアは、少し恥ずかしそうに言うのだが、イルルミューランは、顔を赤くして、心ここに在らずといった様子だ。


「ん? イルル?」


 不思議そうにリズディアは、イルルミューランの顔を覗き込むため、前に立つとしゃがみ込んで、イルルミューランを下から見上げた。


「うわ!」


 イルルミューランは、目の前にリズディアの顔が現れたので、驚いたようだが、リズディアは、気にする事なく話しかける。


「あなたの部屋に行くわよ」


 そう言うと、イルルミューランの手を取って、移動を始める。


 引っ張られるように連れていかれるイルルミューランは、嬉しそうなのか、恥ずかしそうなのか、よく分からない表情でリズディアに連れられていく。


(リズディア様に手を繋いでもらった。 いつぶりだろう、昔は、よく、手を繋いで、後宮の庭を散歩したけど、ここしばらくは、手を繋ぐことも無かったのに……。 でも、リズディア様の手は、とても柔らかくて、温かい)


 そんなイルルミューランの表情を気にする事なく、リズディアは、イルルミューランを引っ張っていくと、時々、廊下ですれ違う執事やメイドは、通り過ぎる2人を見送ると、クスクスと笑ったり、微笑ましい様子で見ていた。




 リズディアは、嬉しそうにイルルミューランの手を引いていた。


 そして、後にいるイルルミューランは、嬉しそうとも、恥ずかしそうとも、なんとも言えない表情で、手を引っ張られていた。


 リスディアは、その表情に気が付かなかったが、それを見た、執事やメイド達は、リズディアが、イルルミューランの手を引いて歩くことが、とても嬉しそうに見えた事で、2人はお互いに思い合っていると確信するように見ていた。




 ミュナディアは、イルルミューランが屋敷に来ると決まった日に、執事とメイドに、おふれを出していた。


 それは、2人の恋路を邪魔しないように、むしろ、影から助けるようにというものだった。


 それは、決して、2人に知られるような事は無いようにすることを厳命していた。


 2人の寝室の扉についても、執事達が後から、取り付けるという徹底ぶりだった。


 それについて、後から、ミュナディアにリズディアが抗議にいった。


「お、お母様、私の部屋とイルルの部屋の壁が、……、壁に扉が付いているのですけど」


 リズディア達の屋敷は、全て、ミュナディアが決済しているので抗議に行くのだが、ミュナディアは、全く気にすることは無かった。


「あら、そうだったの。 きっと、メイド達も仕事の効率を考えての事よ。 特に、朝の1分は、とても貴重なの、世話する人が増えたのだから、執事やメイド達は、仕事も効率的に行わないとね。 それなら、2人の部屋が、扉で繋がっていた方が効率的でしょ」


 あっさり、スルーされているのだ。


 ただ、それは、ミュナディアも知らない間に、執事達によって付けられてしまってたので、アドリブでリズディアに答えていた。


 しかし、ミュナディアは、執事達の仕事に満足しているようだった。


「ああ、常にイルルミューランに教える姿勢を示すのなら、深夜に思いついた時も教えることができるわ。 きっと、リズディアのためになると思うわよ」


 母親が、兄弟以外の男の子を深夜に、自分の部屋に、誰にも知られず入れる事を容認してしまったのだが、その事には、リズディアは、気づかなかったようだが、リズディアは、何か引っ掛かる様な表情をしていた。




 イルルミューランが、リズディア達の屋敷に移ってきた日の話は、屋敷で働く者達の間で、噂になっていた。


 そして、屋敷の中の使用人達は、ミュナディアの方針の元、リズディアとイルルミューランの距離を近づけるために、ほぼ全員が動き出していたのだ。




 リズディアは、自分の心の中に秘めた思いを、誰にも伝えるつもりは無いのだが、15歳の少女には、隠す事は難しい事だった。


 それが、最初に母であるミュナディアに知られてしまった事によって、リズディアは、誰にも言えない恋をしているので、誰にも知られないつもりなのだが、周囲の人達は、全てリズディアの心の内を知って、少しでも、2人を近づけるように動いていた。


 これが、屋敷内で、ミュナディアと使用人達全員が周知している。


 知らないのは、リズディアとイルルミューランの2人、そして、リズディアの兄であるクンエイと、2人の弟達、そして、新しく屋敷に来た、ミュラヨムとイヨリオン母子となる。


 ただ、それは、直ぐにクンエイとミュラヨムには、知られてしまうことになるが、2人とも、その事には、邪魔をするでもなく、積極的に進めるでもなく、ただ、見守っていただけになっていた。




 屋敷にイヨリオンとイルルミューランが、住むようになり、リズディアが、2人の家庭教師を兼ねて、自分の勉強もするようになった。


 当初、イヨリオンの遅れが気になったようだが、基礎を基準に教え始めると、それが日に日に、遅れを取り戻しているのをリズディアは感じていた。


(イヨリオンは、物覚えもいい。 ちゃんとした環境を整えたら、誰にも負けないほどの実力があるのね)


 リズディアは、イヨリオンの才能を見出し始めていたのだ。


 イルルミューランは、スツ家での教育も受けていたので、成績もそれなりに上位だったが、イルルミューランは、リズディアのお陰で、更に上位に上がる必要があったので、真剣に取り組んでいた。


 落第スレスレのイヨリオンを、上位に上げるのは、特に問題は無かったが、イルルミューランの成績は、元々、上位だったので、首席や次席、それに準ずる程度に上げる必要があったのだ。


(僕の成績が上がらなかったら、リズディア様は、結婚してしまう。 リズディア様が、他の人と結婚しないためにも、僕の成績を上げる必要があるんだ)


 イルルミューランは、イヨリオンより、プレッシャーを感じていたのだ。


 イルルミューランとしたら、姉のようでもあり、とても親しく接してくれるリズディアが、政略結婚する事が嫌だったのだ。


 そのため、常に必死で、リズディアの家庭教師を受け、学校での授業態度も、常に真剣に取り組むようになっていた。




 2人の学力は順調に伸びていたのだが、それを邪魔をするわけではないのだが、ミュナディアと屋敷の使用人達の間では、水面下で秘密の計画が進んでいた。


 ミュナディアの意を受けて、リズディアとイルルミューランを接触させるようにしていた。


 朝、2人を起こす係は、1人だけにして、リズディアを起こした後に、隣の部屋に入れる扉を利用して、イルルミューランを起こしにいくようにした。


 隣の部屋に入れる扉があるとアピールさせていた。


『あの扉を使って、行き来ができるとリズディアに意識させて、誰にも知られず、イルルに会えると思わせるのよ』


 メイドには、2人の部屋の扉を意識的に使わせるようにさせた。


 2人の着替えの際にも、必要もないのに、メイド達を行き来させて、扉を使えば隣の部屋に入れると2人に意識させるようにし、そして、扉の近くに着替える場所を移動させ、時々開く扉の向こうの声が聞こえるようにしているのだ。


 ミュナディアの指示によるものだが、メイド達にしろ、執事達にしろ、あからさまに使うようにしていた。


 しかし、夜になると、イルルミューランの部屋に、執事達もメイド達も、絶対に入る事はなく、リズディアからは、呼ばれない限り、メイド達は、部屋に入る事は無くなっていた。


 昼間、執事やメイド達は、あからさまに、その扉を使って、2人の部屋を行き来するようにしていたのだが、2人は、その都度、恥ずかしそうに執事やメイドを見ていたが、リズディアと、イルルミューランが、その扉を使って、ミュナディアの思っていた行為をする為に、その扉を使うことは無かった。


 ミュナディアの指示で、執事達もメイド達も2人の距離を近づけてはいたが、執事達もメイド達も、それを、楽しんでいたのだ。


 そして、リズディアは、誰にも言えない恋をしていると思っているのだが、周りは、それを知っていて、リズディアには、知らないフリをしていたのだ。


 そのうちに、執事やメイド同士で、2人を結びつけるためのに、何をしたのか、家人に知られないように話をするようになっていた。


 執事やメイド達は、ミュナディア公認で、2人の距離を近づける事に知恵を絞り出していた。


 そして、2人を風呂でバッタリ入れる計画に、メイド達は行き着くのだった。


 最初にイルルミューランに風呂を使わせておき、リズディアを風呂に後から入れさせたのだ。


 その計画を実行すると、年頃のリズディアは、歳下とはいえ異性が先に浴室にいた事に驚いた。


 しかし、流石に、これには、リズディアが激怒した。


 裸で2人をバッタリと出合わせたのだが、その結果、激怒したリズディアが、リズディアを風呂に連れて行ったメイドの腕を握って、母であるミュナディアに抗議に行ったのだ。


 リズディアは、何も付けずに、浴場からミュナディアの部屋に移動したので、それを見た、ミュナディアが、メイド達に、程々にするようにと釘を刺したのだった。


 そして、激怒して廊下を裸で歩くリズディアの姿を、数名の執事とメイドが目撃し、使用人達は、やりすぎたことに気がついたのだ。


 ミュナディアも、その全裸で激怒したリズディアの抗議によって、やり過ぎた事に気がつくと、そのメイドは、リズディアの担当を外した。


 しかし、そのメイドは、リズディアの担当は、外れはしたが、屋敷から追い出される事はなく、その後は、ミュナディア専属となっていた。


 そして、リズディアとイルルミューランを近づけさせるための案を考えさせるため、常にミュナディアと一緒にいるようになっていたのだ。


 その後は、2人を浴室で、裸でバッタリ出会うような、あからさまな行動をするような事は無くなったが、常に2人きりになるようなイベントを、さりげなく行うプロデュースをするようになり、可能な限り2人を結びつけようと動いていた。


 ただ、ミュナディアや使用人達の思惑を裏切るように、リズディアとイルルミューランの仲が、進展することは無く、健全な付き合いをするだけだった。

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