Ⅵ‐12
西島に告ってから数日後、俺はヨッチに会いに行った。ヨッチに伝えたのは、ほんの少しのことだけだ。「俺はお前にもバンブーにも負けたくないって思ってる」って。ヨッチは「俺もだよ」って言ってきて俺が「お前らは将来すごいやつになると思ってる。今のまんまじゃ、俺の旗色が悪い」って。そしたら、ヨッチが「当たり前じゃん」って言ってニヤッと笑った。
「もう一遍、自分がどんなやつなのか、のぞいてみたくなった。まっさらな状態で、誰も自分のことを知らない場所で、自分がどんなやつなのか何ができるやつなのか知りたい」って言った。
それを聞いてヨッチが「要するにノープランなんでしょ?」って言ってきたから「アホか、プランの渋滞で高校に入ったらジャスティンビーバーくらい忙しいから」って中身が無くてつまらない嘘をついておいた。
自分を誰かに分かってほしいって感情と、テメェらなんかに分かられてたまるかって自尊心がぶつかった。
自分が間違ったことをしていると分かっていても、何でか謝れずに猛烈な怒りがこみ上げた。
多数派にいる。それに何の疑問も持たずに満足できるやつが嫌いだった。誰が始めるわけでもなく人が集まって異分子を弾いて自浄作用が働きだすコミュニティも嫌いだったし、安全な場所から他人を合法的な暴力で傷つけてくるやつらも嫌いだ。俺は今でも苦手か嫌いなものばっかりだ。
そこに居場所は無くて、だから真逆にいってやろうとクソ意地を張った。どこかの誰かにいつも謝れと言われている気がして、どこの誰にも謝りたくなんてなかった。
自分の人生に修復不可能なくらいの傷跡をつけてみたかった。もうこれしかない。そう思えるような、際限のない無数の選択肢が並べられ続ける世の中で迷う選択肢の無い人生が欲しかった。
ごめんねが言えなくてバカなことをしたし、数え上げたらきりがない。そういうの全部を好きな子に言ったらモヤモヤが消えて無くなった。
俺の周りには憧れの人もいるし尊敬してる人もいる。すげえなとか
最終的にはカズさんとかムラケンや柔道部のOBが俺のケツを拭いてくれたけど、まだまだ地元じゃどこで誰が俺のこと恨んで付け狙ってるか分かんないし、友達も5人くらいしかいないし西島には振られちゃうしで参ったねこりゃ。
しかも、これから始まる俺の高校生活にはヨッチもバンブーもカズさんも西島も、誰もいなくなっちゃうわけでしょ? 完全にゼロからのまっさらなスタートだ。
まあいっか。上等。上等っていうか一丁やったろかいって気持ちでワクワクする。世の人は我を何とも言わばいえ。我がなすことは我のみぞ知るってね。
男はちょっと寂しいくらいがちょうどいい。
ストレイキャットは靡かない 望月俊太郎 @hikage_furan
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