【短編915文字】とにかく笑って頷いておけば良い『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』
ツネワタ
第1話
『酒は人類にとって最大の敵かもしれない。だが聖書はこう言っている』
『【汝の敵を愛せよ】と』
ディスプレイ越しにシナトラが酒を飲みながら、男は彼の戯言を聞いていた。
過去や未来と気軽に交信出来る様になってからこんな場面は日常の一コマとなっている。
普段は寡黙に仕事をこなす壮年の男が今日話すのは三〇年前の自分だ。
とりあえずシナトラと話すことは二度とない。自分語りの多い奴だった。
『君は聞き上手だから話しやすい。とても楽しかったよ』だってさ…… まったく。
そっちが一方的に言葉を詰めてくるから圧倒されてただけだ。
とにかく酒の話しかしないのだ。どの年代の、どのラベルの酒がどうたら……。
交信にもそれなりに金がかかるモノだが、何だか男は損した気分だった。
それに酒は嫌いだ。男は敵を受け入れるほどの器を持ち合わせてはいないのだから。
今度また一緒に飲もうと誘われたが当然お断りである。なにせ聖書を悪用する奴だ。
そして交信が始まった。過去の自分は当然だが若々しく、ハリのある活力を感じた。
「《信仰心は嘘をつかないが、嘘つきは信仰心を悪用する》とは良く言ったモンだ」
「酒なんて最悪の飲み物だと思わないか? アレは人を堕落させるよ」
「最近は手巻き煙草にハマってるんだ。君もやってみると良いよ」
「まあ、といっても私は未来の君だから遅かれ早かれ興味を持つことになるんだけどね」
「たばこのサイズや風味などを自由にブレンドできるから楽しいんだコレが」
「手軽で面白いし。一本あたりの価格も抑えられる」
「個人的にはリコリス(甘草)のペーパーで包むのがオススメだよ」
「いまは手巻き煙草の種類も多岐にわたってきているが、以前は種類も少なかったんだ」
「君の時代だと、もう少ししたら種類も出てくると思う。よかったらお店も紹介するよ」
「煙草は人類にとって最大の敵かもしれない。でも聖書はこう言っているらしい」
「【汝の敵を愛せよ】ってね」
「いやぁ、やっぱり過去の自分自身だから話しやすい。とても楽しかったよ」
「今度また一緒に話そう」
過去の自分は笑いながら頷いてくれている。何だか嬉しくなってしまう。
交信にもそれなりに金がかかるモノだが、何だか男は得した気分だった。
それでは交信終了。
【短編915文字】とにかく笑って頷いておけば良い『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816
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