第三関門 お使い先

「うんしょっ! うんしょ!」


 いすなちゃん、背が低いのでジャンプしてチャイムを押します。


 中ではピンポーン、ピンポーン…とチャイムが鳴り響いてるようですねえ。


「うんしょっ! うんしょ!」


 いやいや、いすなちゃん、チャイムはそんなに何回も鳴らさなくてもいいんだよ?


「ああもう、うるさいなあ。どこのどなたさんだい?」


 しばらくすると、チャイムに付いたインターホンからおじさんの声が聞こえてきます。


 ほら、チャイム鳴らしすぎたから、ちょっとイライラしちゃってるじゃない。


「かねがしさーん! おつかいでーす!」


 いすなちゃん、背伸びをしながらインターホンに向かって大きく叫びます。ちゃんと伝わるかなあ?


「おつかい? なんだか知らねえが今開ける……」


 訝しげに答える金河岸さんですが、とりあえず通じたようですね。


 少しすると、ガチャリと入口のドアが開いて、ちょっとメタボ体質なスーツ姿のおじさんが出てきました。


「かねがしさんですか〜?」


 いすなちゃん、元気よくおじさんに尋ねます。そうそう。人間違いしちゃいけないからね。


「あ、ああ。そうだがどこだ? おかしいな。誰もいないぞ?」


 答えてくれる金河岸さんですが、やっぱりいすなちゃんが見えてないようですね。ドアから外に出ると、首を傾げながら左右を見回しています。


「かねがしさん、ママがこれをわたしてって! うらんでるひとからののろい・・・で〜す!」


 いすなちゅん、そんな金河岸さんの体に見えない・・・・手を差し出すと、そっと触れます。


「…うっ! ……う、うぅぅ……」


 すると、金河岸さん、急に胸を押さえて苦しみだし、その場にバタリと倒れてしまいました。


「キャーっ…!」


「お、おい! 大丈夫か!?」


 突然倒れた金河岸さんに、通りを行き交う買い物客や商店街の人達は騒然とし始めます。


「だ、誰か救急車呼んでくれ!」


「あ、ああ……も、もしもし! 救急なんだが……」


 中には慌てて救急車を呼ぶ人もいますが、もう手遅れです。突然の心臓発作ですでにご臨終ですね。


「やったー! おつかいしゅ〜りょ〜!」


 騒ぎになる金河岸さんの事務所前を、いすなちゃんはちょっと自慢げな様子で後にします。


 お母さんに言われたおつかいを果たしたいすなちゃん、それからもと来た道順にまた電車に乗って、無事にお母さんの待つ家とたどり着けました。


「お帰りいすなちゃーん! ちゃんと金河岸さんを呪い殺せた?」


 帰って来たいすなちゃんをしゃがんで抱きしめると、お母さんはいすなちゃんに尋ねます。


「うん! ころせた〜!」


「えらい! いすなちゃん、よくやったね〜! もう立派な使い魔・・・だねえ〜」


 お母さん、いつもの元気な声で答えるいすなちゃんに、普通の人には見えない頭を撫でながら誉めてあげます。


 お母さん、表向きリラクゼーションの仕事をやっていますが、じつは魔女。金銭問題か? 金河岸さんに恨みを持つクライアントさんからの依頼を受け、使い魔のいすなちゃんに呪い殺してくるようお使い・・・をたのんたんですねえ。


 初めてのお使い魔だったけど、しっかり対象を呪い殺せたいすなちゃん。これからの成長が楽しみですねえ。


                   (はじめてのおつかい 了)

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はじめてのお使い 平中なごん @HiranakaNagon

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