亘り




「片眼鏡を眼鏡拭きで拭く時だけ見せる冷然とした表情がね」

「小薙刀を構える時だけ見せる猛勇とした表情がね」

「料理をしている時の楽しそうな足踏みと表情がね」

「衣服のアイロンがけをしている時のやわらかい鼻歌と表情がね」

「勉強している時に鼻に小さな皺を作るところがね」

「勉強している時に前髪を少しいじる仕草がね」

「「素敵なところの一つなんだよね」」


 わかる。

 僕は心中でだけ激しく同意をしながら、表向きはほんわかと受け答えをする。

 僕の淡い恋心は知られるわけにはいかないんだから。


(でも。ああ。もう。君たち)


 素敵なところが多すぎだよ。

 叫びたくて、でも叫べなくて。

 代わりに空中で転び回りまくった。


((なんで/なぜあんなにあの子には素直に話せるんだろう?もしかして))


 首を傾げる彼女と彼の頬が、うっすらと赤らんでいることなんて知らない僕であった。









(2022.5.11)



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夜桜橋 藤泉都理 @fujitori

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