第4話 覚悟
シロウは「ウェスト・ギルドに加入する」という話から、戦士長と銃士長のそれぞれより「相応の実力を見せてほしい」という触れ込みで外に連れ出されていた。
ギルドの裏手にある闘技場のような施設に連れ込まれたシロウは、バツの悪い顔を浮かべつつ、攻撃的な眼差しを浮かべているストムと対峙する。
「あの、なにをすれば……」
シロウは当然のような狼狽を見せるものの、ストムはそんなことも気にしないようで、「大丈夫」と笑いながら、軽々と鉄製の刃が両手の中で金切り声を上げる。
シロウは思わず、初めて向けられる本気の殺意に思わず身じろぎさせられた。
四王と呼ばれる怪物、アベルと相対した時はこんな感覚は抱かなかったというのに、ストムから迸る明らかな殺意は、戦闘においては一般人であるシロウには、それまでの経験において感じたこともないものである。
「実力を見るだけだ」
シロウは一瞬、自分が見ている景色が緩やかになっていく感覚を覚えた。それがすぐに走馬灯であることは、視界に入り込む鉄製の刃が振り上げられた瞬間であり、それがシロウの体を動かす。
圧縮された時間の中、凄まじい速度でシロウの肉体を振り下ろされた刃を回避させた。
停止していた時間が更に加速していく。相対的にシロウの目視した光景は明らかに遅く、その理由が「自分自身が素早い速度で動いている」ということにたどり着くまでにかかった時間は、数秒にも満たなかった。
「殺す気満々じゃんか!」
思わず飛び出た言葉に対して、相対したストムの気持ちは全くの逆をいっていた。
突発的に感じたのはその異常な速度である。身体能力の極地に達しうるストムの身体能力を遥かに凌駕するほどの速度感、それだけでストムはシロウの実力を理解させられた。
ストムは本気で刃を振るった。そしてシロウはそれを回避した。この事実のみでストムは自ら武器をおろし「実力十分ってわけだ」と小さく笑う。
その光景を見てシロウのみが呆気に取られた表情を浮かべているが、一連の動きを見ていたクレセントは「今の一連のやり取りに意味などなかった」と言わんばかりに割って入ってくる。
「はい、これで文句はないわね?」
「ちんちくりんの魔法使いに言われるのは癪だが、おたくのおメガネは認めるさ。確かに、とんでもない上玉だ」
「少しくらい、あたしのことも信じてくれていいのに」
「オレは自分で見たもの以外は信じない質でね。メルバもそうだしな」
ストムの言葉に沈黙を貫いていたメルバも、軽く手を上げて反応するも、それ以上にストムはシロウに興味津々と言わんばかりに顔を覗き込んでくる。
「おい、そこのキッズ」
シロウへと視線を向けたストムは、独特な表現で声をかけるが、そこに先程向けていた殺意は存在せず、むしろ明らかな迎合の眼差しが向けられていた。それでもシロウは「キッズ……」と複雑な言葉で返す。
するとストムは真面目な顔つきになり、「ギルドに入る目的は?」と面接じみた内容を尋ねてくる。
「……家に帰るため」
「それは、これから何を捨てても、何を持っても達成したいという、執念はあるか?」
「それって……」
シロウはストムの言葉に言葉を詰まらせる。問いかけはまさに、「ギルドとしての仕事をこなす事ができるか」という心意気を尋ねるものと同じものだった。
「あぁ、俺たちの生業は命は容易く扱われる。ハンターも、ターゲットもな。お前がいくら強くても、ギルド(ここ)にいる限り、死の臭いは纏わりつく。それでもいいのか?」
ストムの眼差しは先の本気の殺意と同じ、真剣な表情が向けられていた。
もちろんシロウには、確固たる意志は変わらず、同じく真剣な眼差しで首を縦に振る。この世界でやることなど、たった一つなのだから。
「勿論、オレは元の世界に帰る」
「何をしても、か?」
「勿論だ。そのためにはなんだってやるさ」
シロウの言葉に、ストムはけたけたと口を開けて笑った。シロウはその真意を計りかねながら、「面白い」というストムのその先の言葉を待つ。
「お前もイカれてるな。いや、俺は嬉しいよ。頭のおかしい奴のが、こっちの界隈で生き残れるからさ」
「……褒め言葉なのかわからないけど、とりあえず、オレはギルドにいてもいいってことだよな?」
「俺は賛成、他の連中は?」
ストムの言葉に同調するように、クレセントとメルバが手を挙げる。実質的にギルドにおける最高権力の三名が手を上げたことで、シロウのギルドの加入が実質的に決定する。
その中でクレセントは、シロウにそっと手を差し伸ばして「これからもよろしく」と小さく微笑む。
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