小麦色を輝かせて
「「「我こそは雷神様なり!!」」」
奇妙な仮装をした子供達が私を囲むように近寄っては、何かを求めるような仕草と共に皆同じ台詞を吐いてやって来る。
周りを見てみると、麦の穂で作った
仮装した子供達は町の大通りを楽しそうに闊歩しており、その通りの脇には沢山の屋台が構えている。なんとも賑やかで奇怪な光景だろう。
雰囲気から察するに、今日はこの町の祭日みたいだ。
過去に一度だけ城下町のお祭りを経験したことがあるから間違いない。
私こと、ダン・イレスタは立ち尽くしていた。
仮装少年少女を周りに侍らせながら……。
この町に来れば少しは情報が手に入ると思っていたのに、なんて面倒な日に来てしまったんだろう。
「ごめんね。私、ここのお祭りの事をよく知らなくて……どういうルールなのか教えてもらってもいいかな?」
私からは何も貰えないことを察したのか、殆どの子供たちは私から離れて行ってしまったが、まだ一人だけ性懲りも無く残っていたので、声を掛ける。
中腰で。「子供に物を訪ねる時は、同じ目線で聞くのよ」とはお母さんから教えてもらった豆知識だ。
「もしかしてお姉ちゃん、外からやってきたの?」
不細工な仮面をずらし、麦の穂の向こう側からちらりと顔を覗かせる。
どうやら女の子のようだ。
「そうなのよ、ちょっと探し物をしているんだけどね。この町の役所でも何でもいいのだけれど、情報が集まりそうな場所とか知っているかしら?」
「役所…情報…?うーん。」
女の子は暫く考え込んだ仕草を見せてしまった。子供には少し難しい質問だっただろうかと心配をしたが間もなく、女の子の顔が明るくなる。
「わかった、教えてあげる!でも私にグロウナッツを買ってよ!」
「グ、グロウナッツ?」
「お姉ちゃん、このお祭りのルールが知りたいんでしょ?
私たちが雷神様でね、大人の人たちは北の兵士さんなの!私たちが『我こそは雷神様なり!』って北の兵士さんに話しかけるとお菓子をくれるんだ!だからね―――」
女の子はずらしていた仮面を再び被りなおす。
「—――我こそは雷神様なり!!」
何故子供達が雷神様で私達が北の兵士でお菓子を渡すのか。理由はさっぱりわからないが、それは女の子も同じなんだろう。
私は彼女の要求を受け入れることにし、そのままグロウナッツとやらの屋台まで手を引っ張られることとなった。
ダングリス山脈の麓に栄える斜面街「トーラム」。
水害が少なく、風通しも良い温暖地であるこの町では種実類、つまりナッツ類の栽培が盛んである。
そして、とある理由により電気で動く機械の開発及び普及も他所より進んでいるという。
町で収穫されたナッツを専用の機械に流し込み作られるそれは、ナッツを糖衣掛けし、更に表面を焦がすことで褐色透明に輝くグロウナッツと呼ばれ、この町では定番のおやつとして愛されている。
「おじさん、グロウナッツを一袋ちょうだい!お姉ちゃんが払ってくれるんだ~」
「北の兵士さんからグロウナッツを買って貰うなんて贅沢な雷神様だなぁ。ほら、国銅貨4枚だよ。」
「結構するのね……。」
革で出来た財布袋から長方形の銅貨を4枚、しぶしぶと屋台の主人に手渡す。小さな紙袋を受け取った女の子は満足気な表情だ。
「お姉ちゃんありがとう!約束だから教えてあげるね。
一番大きい道のずっと上にあるところがね、お母さんとよく行ったりするの。
大人の人がいっぱい集まるし、なんか難しい事してるから……。
それと今日は雷神様が来ているんだって!」
「大通りの一番上、あの建物かしら。……ん、雷神様?」
町の一番上にある一際大きな建物の事だろうか。
それと先程から聞いていた雷神様とはずっと概念的な存在だと思ってはいたのだが、どうやらそうではないらしい。
実在する人物なのかそれとも―――
「もしかしてあんた、トーラムには初めて来たのかい」
グロウナッツ屋台の主人が顔を出す。
「あぁ、ご主人。ちょっと探し物がてら情報を集めたいのですが、私は山奥の里から来たものであまりよその事情には詳しくないんです。」
「なにも知らないでこの祭りにブチ当たったって訳か!そりゃ大変なタイミングで来なすったなぁ。」
大笑いする主人は町の上方にある大きな建物を指差す。
「嬢ちゃんの言う通り、町の大通りに沿ってずっと上がっていくと大聖堂があるのさ。この町じゃ役所としての役割も持ってるしな。
小難しい古い本とかが置いてある書庫もあるし、情報を集めるならありだと思うぞ。」
「あれは大聖堂だったのね。ご主人、雷神様って一体?」
「やっぱり雷神様の事も知らなかったか。国の戦神様だっていうのに他所の連中は誰も知らねぇんだよな。」
絶対家族戦線 三栖出隅 @desumi
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