絶対家族戦線

三栖出隅

脱線事故

まただ。

部屋にスマホの着信音が鳴り響く。


重い身体を起こす。

締め切ったカーテンの間から一筋の光が差していた。


朝が始まろうとしている。

しかしそれは希望に満ちたものではなく。


決して変わる事の無い、現実という名のレールがこれからも続いていくということを思い知らされるだけなのだ。


着信音が鳴り止み、スマホを覗き込む。画面には同僚からの着信履歴が残っていた。

あいつには申し訳ないが、今の俺には応じる気力は無い。


あの日から1週間が経ったのか。

フラフラとした足取りで立ち上がり、棚上に飾ってある写真立てを手に取る。

埃を被り始めたプレートの向こう側には笑顔で笑う彼女がいて、まるで昨日の事のように思えてしまう。


「詩音、おはよう」


一切動じようとしない口から出した、精一杯の言葉だった。

それと同時に腹部から、義務的な栄養補給を催す音が鳴る。


もう備蓄は尽きていたんだったな……。買いに行かねば。

玄関に向かう。




なぁ、何でこんな事になってしまったんだ?

俺が何をしたっていうんだ?

今までずっと幸せだったじゃないか。

それとも、何も無かった付けが今になって回ってきたとでもいうのか?


神様ってやつがいるのなら教えてくれよ。

俺のこれまでの、そしてこれからの幸せを返してくれよ。


お願いだ。俺の一生のお願いをお前に捧げてやるから。頼むから聞いてくれよ。


行き場の無い感情はそのままドアノブを握る力に向かうのみで、答えが返ってくることは無かったのだが……。

その代わりなのだろうか、扉の向こう側がいつにもまして騒がしい様子だった。


こんな朝の時間に一体なんだってんだ。


どのみち俺には関係の無い事だ。


ドアノブを捻って力を入れる。

重いドアが鈍い音を立てながら少しずつ開いて……いく……?


こんなにもドアって重かったか?


そう思った瞬間、開いたドアの隙間から強烈な光が差し始める。


そのまま光は俺の身体を包み込む。






少しだけ……暖かい気がした。



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