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「今日、これからまだ時間ありますか?」


「うん、有り余ってるくらいだ」


「あなたの脚本、読んでみたいんです」


「……恥ずかしいな」


「だめですか?」


「いや、いいよ。その代わり……」


「その代わり?」


「君が演じているところも見てみたい」


「……恥ずかしいですね」


「はは」


「うふふ」




結局、僕らのスイッチの扱いは、彼女の「保留」の一言で決まった。


あれから一年、まだスイッチの扱いは保留のままだ。


部屋の小さな金庫の中に仕舞ってある。


時々思い出したように取り出すけれど、どちらがどちらのものなのか、結局わからないままだ。


だけどそれでいい。


そんなことは、些細なことだ。




僕はまだ脚本をこつこつと書いている。


大きな仕事はないが、劇団などに使ってもらえる頻度は上がった。


彼女もこつこつと役者を目指し続けている。


僕の脚本で主演したこともある。


客入りはまだまだだけど、いずれ大きな舞台で、看板女優と呼ばれる存在になりたいと言っている。


小さな部屋で、二人、小さな夢を追いかけている。


たぶん、これは、幸せだと思う。




★おしまい★

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安眠スイッチ モルフェ @HAM_HAM_FeZ

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