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コーヒーを飲みながらお互いに話をした。


脚本を仕事にしたいけれど、なかなか芽が出ないこと。


自分のスイッチは安物で、あの事件以来怖くて押す勇気がないこと。


彼女の方は、予備校に通いながら役者の道を進みたいと考えていること。


同じく安物のスイッチで、あの事件以来怖くて押す勇気がないこと。


コーヒーを何杯もお代わりしながら、お互いのことを話した。


自分の環境や心境を包み隠さずに話すのは久しぶりだ。


それは彼女の方も同じようで、表情が生き生きとしている。




そうして、今後、どうしなければいけないかを考えた。


絶対に押さないようにして、お互い一つずつ保管する案。


銀行に保管して二度と取り出さない案。


海に捨てる案。


山に埋める案。


二つとも破壊する案。


とりあえずこの場で一つ押してみる案。


むしろここで二つとも同時に押してしまう案。




もう後半はふざけていた。


話しているうちに、なんだか、どうでもよくなった。


彼女の明るさがそうさせたのか。


なぜこんなに明るく話をすることができるのか。


二人の、命に関わる話を。




喫茶店のマスターもちらちらとこちらを気にしている。


楽しげに安眠スイッチの話をする二人組は、やはり奇異に映るだろう。


他の数少ない客も、訝しげな目を向けてくる。


でも、もうそんなことはどうでもよかった。


目の前の絶望を笑ってやろう、と、なぜか開き直ることができた。


これは罰だとか不幸だとか、そんな感情は思いつかなかった。


絶望の表情から数分で、最高の笑顔に切り替えられるこの素晴らしい娘に出会えたのだから。




そして、彼女は、笑顔でとんでもないことを言った。


「とりあえず、保留にしちゃいましょう」


「は?」


「とりあえず、スイッチをどうするか、一旦保留に」


保留。保留か。


目の前の問題から目を背けると。


馬鹿馬鹿しくて素敵だ。


「は?」なんて言ったが、僕もその案にすでに乗り気になってしまっていた。


口元がにやけていくのが自分でもわかる。




「いいね、保留にしよう」


「ええ」


「それよりも考えたいことがたくさんできたよ。脚本も書けそうだ」


「私も、なんだか吹っ切れましたから、演技の勉強、頑張れそうです」


彼女の笑顔は、本物だった。


絶望しすぎて笑う、とかではなく、「吹っ切れた」そんな感じだ。


はは、僕も久しぶりに笑って、顔の筋肉が痛い。


人と話すのも久しぶりだからかな。


だけどそれが、とても楽しかったんだ。


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