第6話 邂逅
◆◆◆◆◆
「…農家!?」
「そうだよ(食い気味)」
「冗談だよね透。農業はお前じゃ役不足だって!もっとこう世の中を動かすような素敵なことができるはずだよ」
「智也…それは農業見下してるぜ?人間食べ物なきゃ死ぬんだよ?これより大切な仕事なんかあるか」
「そりゃそうだけどさ…」
「じゃあ誰がやるのさ。お前は継がないんだろ?ほとんどの若者がそんな感じでほっぽり出してく…食べ物は輸入品があるから大丈夫って奴もいるけどさ、そうじゃないだろ」
「確かにそのとおりなんだけどさぁ…」
「そもそもさ、教育からしておかしいんだよ。例えば牧場体験とかあんな臭いところに連れてかれて、あんまりこうやりがい的ないい側面とか感じさせずに畜産への嫌悪感植え付けられるだろ?もうね、“農業なんて程度の低い、それしかすることの出来ない無能がさせられること”って扱いされてるみたいで腹立つんだよ」
「…それは……」
「否定できないよな?心当たりあるはずだから」
「……」
「それにさ、智也の家のお米、本当に美味しんだよ。あんな素晴らしいものを育て上げるってほんとうに凄いことだよ」
「と…透……」
「だから、俺は………」
◆◆◆◆◆
「……生きてる」
智也が目覚めて咄嗟に零れた一言がこれであった。
あまりの高密度のエネルギーの衝突。それを間近で受け、無事でいられるはずがないのだが。
(塹壕から出るまでもなく気絶してたから…か)
ポケットの中で粉々になっている旧型携帯機や、鎖状に手首にぶら下がった時計だったものに目を向ける。
そして、自分が、自分の家にいることも認識した。
…なぜ、帰って来れてるんだ?
「目が覚めたか智也」
「っは……!??」
背後から声が聞こえた。
聞いたことの無い少女の声質、なのにとても馴染みのあるイントネーション
声の方向へ目をやると、そこには地球人でも知らぬ者のいないほどの、悪い意味で有名すぎる魔王の少女 。
(ま…魔王ミレイア……?!!!)
…のはずだが、どうもその言動は智也のいい意味でよく知るものだった。
「おはよう智也。まあ大体俺のせいだけど、もうちょっと早く目を覚ましてくれよ。ほら、見ろよ見ろよ俺の目の隈 。もう2日は寝てないぞ。お前のせいだいい加減にしろ」
「なにを言って…まさか……」
こちらが迷惑かけた時こそ、気負わせないよう憎まれ口を惜しみなく、
そこに汚い某ゲ〇ビデオのネタを挟むのも忘れない、
そんな、一見クソなように見えて、やっぱりクソだけど、それでも嫌いになれない愛する馬鹿野郎…
智也は無意識に、異世界の魔王である少女に思い浮かべた名前を発した 。
「透!???」
「そうだよ(食い気味)」
そして、彼女…もとい彼は、いつものように、いつかの日のように…汚くそれを肯定した。
農園の悪姫羅刹 :「農業スキル取ってくる」と異世界に行った親友が何故か最凶最悪の美少女魔王(農業力0)になって帰ってきた件 杉村碧 @sgmraoi
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