硝子の君

しゃむ猫

君の正体

僕は君が嫌いだ。

 君は昔から僕の考えが分かるようだった。僕が家出をした時も、1人になりたくて君の来ないような所に行っても必ず君は僕の所に現れる。

 君の名前は分からない。分かっているのは、僕の近所に住んでいる僕の4つ上の大学2年生。そして、僕の事を弟のように接してくれる。

 君はいつも、僕の所へ静かに現れて、文庫本を読んでいる。眼鏡の奥に見えるその瞳には、どこか空虚な雰囲気を持っていた。

 僕が君に出会った時、僕は高校生になったばかりで両親同士の喧嘩が多く僕は近くの公園のベンチで本を読んでいた。

 その時、急に後ろから

 「その本、面白いよね。」と声をかけてきた。当時は、無視をし続けていたけれど君はそんな僕に構わず独り言のように話を始め、気づくと君は僕の心の中まで見透かし、いつもと違う所に行っても君は僕の前に現れた。


 その日から、僕は君と他愛もない話をしたり悩みを聞いてもらっていた。この時間だけが、唯一の心が安らぐ時だった。


 そんな中、僕は現実での様々なストレスに耐えきれず自殺を決めた。僕は君の嫌いな高い崖に行き、海の中に消えようと考えた。

 崖に着くと僕は、浅はかな期待を込めて君と出会った時に読んでいた本を読む。この本は人生の最後についての本で、君と出会った当時は難しくとても長く思えたが、今思うととても短い本だった。

 

 空が赤く染まりした時に、君は現れた。

 「やあ、珍しいね」そう言って笑う君はどこか嬉しそうだった。やっぱり君は僕の場所が分かるんだ。僕は人生の最後にたった一つの質問をした。


 「どうして、僕の所に現れるの?」


 君は、その空虚な瞳で微笑み僕を見た。

 「ごめんね。こんなお兄ちゃんで。」


 そういうと君はポケットを指差した。

僕がポケットを見ると、いつも僕が持っている両親にもらった小さい時計。その中には、綺麗なガラス玉があった。

 僕は理解ができなかった。今まではなかったはずだった。



 すると、君はもういなかった。



 自殺をするよりも僕は君の最後の言葉に違和感を抱き、家に帰った。両親に聞いてみると、僕には4つ離れた兄がいたらしい。その兄は生まれると治らない病にかかり、僕が生まれる前に息を引き取った。





そしてその病は、





自分の心臓が硝子になる病だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

硝子の君 しゃむ猫 @siamneko96

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る